全長 100cm(写真は50cmほど)
釣りの世界では重宝されるイトヒキフエダイのオトナは、大きいものだと1mほどになる。
残念ながらダイビング中にそんな巨大なオトナに出会うことはないし、若魚も相当レアな魚だ。
昨年(2017年)までは。
水納島での2016年までの22シーズンで、1度か2度しか目撃例が無かったイトヒキフエダイだったのに、2017年、2018年の2シーズンには、やたらと若魚に出会うようになったのだ。
もっとも、何匹も何匹もいるわけではなく、出会う際はいつも単独でいる。
また、近くまでなかなか寄らせてはくれず、たいていスーッと逃げていく。
その際、特徴的な背ビレが、ビヨ〜ンと風にたなびくようにまっすぐ後ろに伸びる。
フエダイの仲間のなかではこのフォルムが異質にカッコイイ。
砂底にジッとして警戒している時は、青いラインにかぶさるように横縞が現れる。
光を当ててしまうと目立つけれど、赤味が目立たなくなる海中では、砂底の陰影のように見えなくもない。
ホンソメワケベラにクリーニングしてもらうときも、この模様を出しつつ、体の色を濃くする。
ここ2シーズン(2017年、2018年)でちょくちょく出会うようになったイトヒキフエダイ、体のサイズが明らかに異なるものがいるから、少なくとも2個体はいるらしい。
彼らと出会うのは砂底付近で、よく餌探しをしている。
口に入るものなら何でも食べる大食漢だそうで、砂中に潜む小動物を探る目つきはいつも真剣だ。
その餌探しの方法がなかなか際立っている。
どうせまたすぐ逃げちゃうんだろう…と諦観しつつ近寄っていったら、ストロボの光が届くくらい随分近寄れてしまった。
なんで逃げないんだろう?
というか、同じところにジッとしたまま。
さらに近寄るといったんその場を離れるのだけど、相当執着があるらしく、少し距離を置いてやるとまた同じところに戻ってくるイトヒキフエダイ。
はて、ここにいったい何があるんだろう?
その時ハタと気がついた。
イトヒキフエダイしか見えていなかったからなかなか気づけなかったけれど、彼の周りは↓こういう具合になっているではないか。
こんもり盛られた砂山の周りに、放射状に伸びる太いライン。
上から見るとこんな感じ。
イトヒキフエダイは、この中央の砂山付近で何かを待っているかのようにジッとしつつ、ときおり砂山の天辺付近に息(?)を吹きかけている。
ワタシが近寄りすぎると、仕方なく…といった風情でこの場を離れるものの、すぐまた戻ってくる。
彼がこの場から離れているときには、その場でも息を吹きかけ、砂中の何かを物色している。
そうやって砂を払うべく息を吹きかけ続けると、おお、この放射状に伸びる1本1本のラインのような形になっているではないか。
そうか、この砂山の周囲のラインは、彼が息を吹きかけ続けることによって形成されているに違いない。
それにしても、いったいなんなんだろう、このイトヒキフエダイ版ミステリーサークル。
ひょっとして、周りから攻めていって、真ん中の砂山に餌となる砂中の小動物が最終的に集積するよう仕向ける作戦なんだろうか。
ホントに餌探しなのか、それとも他に目的があるのかは定かじゃないのだけれど、たまたまこの時だけこういうことをしていたわけではなく、その後もこのなんちゃってミステリーサークルを、別の場所でもちょくちょく見かけるようになった。
時には、新一本サンゴの傍らに作っていることも。
このほか、中央部分の小高いところに小岩がある場合もあった。
いったいぜんたい、このサークルもどきはなんなのだろう?
これがもう少し幾何学的に完ぺきな模様を描いてくれれば、奄美大島のアマミホシゾラフグなみにセンセーショナルな発見になったかも?
※追記(2022年11月)
放射状のサークルはその後もちょくちょく目にしており、イトヒキフエダイが外側から内側に向かって息を吹きかけるようにして水流を送り、放射状の溝を作っている様子を観る機会もあった。
一方、そこまでサークル紋様になっておらず、中央の小さな塚だけの場合でも、イトヒキフエダイがその中央部でジッと佇んでいる様子を何度も観ている。
はたしてイトヒキフエダイは、何をしているのだろう?
フエダイの仲間たちは巨群となって産卵ショーを繰り広げるそうだから、これは繁殖行動と関係があるとは思えない。
では、この相当な執着ぶりは…。
近寄るワタシを警戒していったんはその場を離れても、少し距離を置いて観ていると、またすぐ戻ってきて塚の上で静止するイトヒキフエダイ。
いったい何が目的なのか?
その答えのひとつになりそうなシーンを、昨秋(2021年)ついに目撃した。
ジッとして何かを待っているように見えるイトヒキフエダイの目つきが急に変わったのですぐさま動画撮影ボタンを押した途端、ボイッ!とばかりに砂底に一撃、そして背を向けてモグモグしていたのだ。
その後再び塚の中心に向き直り、砂中から押し出されたのか慌てふためきウロウロしていたテッポウエビを軽く一飲み。
それからさほど時を置かず、イトヒキフエダイはもう一度同じような動作をしてモグモグしていた。
ってことはこの不思議なイトヒキフエダイの構造物は、エサゲットのためのものってこと?
外側から内側に向けて溝を掘るようにしてサークル状紋様を作っているのは、獲物がジワジワと中央部の塚に集まるようにして、効率よくエサにあるつけるようにしている…
…のだとすれば、相当アタマいいじゃん、イトヒキフエダイ。
それにしても、テッポウエビはオマケだとすると、メインの「獲物」は何なんだろう?
それを解明するには、エサゲット直後のイトヒキフエダイを解剖…
…なんてありえないから、イトヒキフエダイが待機態勢になっている小塚をテッテー的に掘り返し、そこに潜むクリーチャーを、ゴッドハンドO野さんご愛用のテボで濾しとってみるしかないか。
はたして塚から飛び出すクリーチャーはいったいナニモノか。
乞うご期待!
…と思っていたら、今年(2022年)はまったく遭遇機会が無い。
もともと「珍」だったイトヒキフエダイ、いっときのフィーバー時代は終了し、元に戻ったのかな?