全長 6cm
岩場のポイントに行けば、サンゴの周りで軽く群れているカブラヤスズメダイだけど、かつての水納島では、砂地のポイントではなかなか見られなかった。
ところが近年は、砂地のポイントのリーフ際でもけっこうフツーに観られるようになっている。
昔のワタシが節穴だったからか、それとも98年の白化後のリーフのサンゴの構成が変わったからか。
それでもやはり、よく目にするのは岩場のポイントだ。
尾根のように沖に延びるリーフの先端部分、水深にして10〜15mあたりのサンゴ群落で小さな群れを作っている。
海域によってはこのカブラヤスズメダイが大群をなすところもあるそうながら、そこまで圧倒的な群れは水納島では観られない。
老成したオトナは一番上の写真のように黒っぽく色づくのに対し、若い子はもっとすっきりアッサリしている。
初夏くらいなら、尾ビレの黒い筋すらうっすらとしている幼い子が観られる。
チビターレからオトナへと成長しても色味にさほどの変化があるわけじゃないし、そのたたずまいや姿形に、他のスズメダイと比べて特筆すべきものがあるというわけでもないため、フツーに素通りしている方は多いはず。
しかし姿形に特徴が無いカブラヤスズメダイながら、注目すべきはその名前だ。
鏑矢スズメダイ。
鏑矢なんて、武士の時代ならいざしらず、はたしていまどき誰が普通名詞として用いるだろうか。
それ以前に、漢字で書いたら読めないんじゃね?(そんなCMがありましたね)
この名はおそらく、尾ビレの黒い筋が描く形に由来しているのだろう。
もちろんそれはオトナの尾ビレであって……
2cmほどのチビの尾ビレから鏑矢を連想するのはムツカシイ。
※追記(2022年6月)
リーフエッジ付近の浅いところでは、枝が長く伸びて入り組みながら成長するタイプのミドリイシの周りにカブラヤスズメダイがたむろしていることがよくある。
サンゴの周りというよりも、サンゴの枝間に入って隠れ潜んでいるように見える。
本来群れているはずのみんながこのようにサンゴの枝間にいるものだから、てっきり近づくワタシを警戒して避難しているものとばかり思っていた。
ところがそこから離れて遠目に観ていても、彼らがこのサンゴの周りから離れる素振りはなく、むしろ枝間に留まったままでいる。
ひょっとするとこれは…?
…と朧げには思っていたものの、肝心のシーンが観られないままでいるうちに、その意味を知る機会を得た。
カブラヤスズメダイたちは、このようなサンゴの枝の表面を産卵床にするのだそうだ。
パッと見すべて健康な枝に見えても、実はその内側にはサンゴの表面が死んでいる部分がたくさんあるのだけれど、カブラヤスズメダイたちはそこに卵を産み付けるという。
それを知ったのは何年か前のことながら、これまで実際に観る機会がなかった。
なにしろサンゴの枝が入り組んでいるから、その内側の秘め事を覗き見るのが難しい。
そんなおり、カブラヤスズメダイたちが枝間に集まっている一抱えほどのサンゴ群体に、うまい具合いに一部始終が見えるアングルがあった。
斜め上方63度ほどの角度なのでプカプカ浮きながら観ていると…
見るからにアヤシイ(?)2人が、サンゴの枝の死んだ部分でアヤシゲな逢瀬を楽しんでいた。
オスらしき方がセッセとサンゴの表面の掃除もしくはすでに産みつけてある卵のケアをしていて、ずっと傍にいるメスがそこにきてまず産卵床のチェックをする。
その下腹部には輸卵管が出ている(矢印)から、産む気満々であることがわかる。
するとオスは、表面お掃除作業からの流れになるからか、それとも愛情表現なのか、産卵床に近づくメスに熱烈チューまでしていた。
そしてメスが産卵。
そのあとオスが放精して…という一連の作業を、若干のインターバルを設けつつ何度も何度も繰り返していた。
その都度、産卵中のメスを見守るオス。
こういう場合に「見守る」などと擬人化した言葉を使うと、冷徹なる科学的頭脳の方々はたちまち
「いや、これは本能的行動にすぎない」
などと冷静な話にしてしまうのだけど、トイレで赤子を産み落としたりロッカーに捨てたりするヒトたちにくらべれば、よほど愛と情熱に満ちた行動に見えるんですけど…。
産卵・放精を繰り返すインターバルの間に、この産卵床を観てみよう。
するとそこには…
産みたてホヤホヤのツルツルタマタマ!(もっと広範囲に産みつけられていた)
勝手な思い込みながら、このように産卵行動まで観させてもらうとなんだかとってもお近づきになれたような気がして、カブラヤスズメダイもまた、近しい魚のひとつになったのだった。
一連の様子の一部を撮った動画は↓こちら。
メスの産卵を促すかのように、お腹のあたりに刺激を与えているかのような仕草が微笑ましいカブラヤダーリンです。