全長 6cm
映画「ファインディング・ニモ」が公開されて以来、一躍人気者になったカクレクマノミ。
マニアックな方は、あの映画はグレートバリアリーフが舞台だから、カクレクマノミとは別種のクラウンアネモネフィッシュだ!と勝ち誇ったようにいう。
たしかにキチンと研究されたカクレクマノミの分布域はオーストラリア北部までで、グレートバリアリーフにはそっくりの別種しかいないそうだ。
けれどさほど海水魚の種類にこだわりが無いのであろうウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社公式のサイトでは、映画「ファインディング・ニモ」を
「元気で好奇心いっぱい、カクレクマノミの子供ニモは……」
と、思いっきり「カクレクマノミ」と言い切っているのであった。
マニアックダイバーやアクアリストが何と言おうと、「ニモはカクレクマノミ」でいいのである。
さて、そんな人気者カクレクマノミは、映画が仇になり、一部の地域では一時期乱獲の憂き目にあったけれど(あの映画を観てなぜカクレクマノミを飼おうとするのだろう?)、ほとぼりが冷めた今、健気にフツーに暮らしている。
水納島の場合、彼らが主に住処にしているイソギンチャクは、センジュイソギンチャクとハタゴイソギンチャクの2種類。
そのうちハタゴイソギンチャクはもっぱら浅い水深を好むので、リーフ内や深くてもせいぜいリーフエッジぐらいのもので、通常のダイビングではお目にかかる機会が少ない。
むしろ海水浴やスノーケリングを楽しむ方のほうが出会う機会は多く、大潮の干潮時には膝下くらいの水深で観ることもできる。
この箱メガネの先に、ハタゴイソギンチャクとカクレクマノミがいる。
その昔は島の海水浴場でも手軽に観られ、多くの人が愛でていた。
ただ、↑このハタゴイソギンチャクは、波に転がるような小さな岩にくっついていたため、台風その他で時化るたび、場所がコロコロ変わっていた。
それが最終的にはスーパーストロング台風の襲来により、残念ながら跡形もなく消えてしまった…。
ハタゴイソギンチャクは触手がピンク色になる個体もいる。
それが浅いところにいると、キラキラ降り注ぐ太陽光線を浴びてとても鮮やかに見える。
このハタゴイソギンチャクは、大潮の干潮時には水面スレスレになるくらいのところにいるので、目一杯潮が引いているときに這いつくばって頑張れば、カクレクマノミとイソギンチャクが水面に映っているきれいな鏡面写真が撮れることだろう。
ハタゴに住んでいるカクレクマノミの中には、体色に随分黒が多い子が観られることもある。
このハタゴでは雌雄ともこういう感じで黒っぽく、またハタゴにたどり着くチビチビもまた……
濃い目。
だからといって、インリーフでハタゴイソギンチャクに住んでいるカクレがすべてこのタイプというわけではないから、どういう法則性があるのかは不明だ。
一方、ファンダイビングでお馴染みの、センジュイソギンチャクにいるカクレクマノミはこんな感じ。
余談ながら、このセンジュイソギンチャクには愉快な習性がある。
潮の加減かなんなのか、その法則性はわからないのだけれど、ときおり申し合わせたように、ツボ状に丸くなるのだ。
誰か心無いヒトがいじり倒したためにイソギンチャクが縮んだということではなく、ほぼほぼ同時に別の場所のハナビラクマノミが棲んでいるセンジュも同様にツボ状になる(下の写真は同時に撮ったものではありません)。
ここまでツボ状になられると、セサミストリートに出てくるマペットのようで、思わず目鼻口を描きたくなってしまう。
ツボ状になったセンジュは触手が先からチョロッと出ている程度になって、そこにカクレやハナビラが身を寄せ合うから、絶好のシャッターチャンスになる。
興味深いのは、同じセンジュイソギンチャク(とワタシが思っているもの同士)でも、触手の色やボディの色が随分異なっているところ。
上の2つの写真は同じカメラではないとはいえ、光を当てた時のイソギンチャクの裏側の色は、カクレクマノミが暮らしているもののほうが圧倒的に赤い。
もっと南洋に行くとより南国モードになるようで、モルディブあたりではほぼほぼ妖しいピンクないしパープルだった(宮古・八重山あたりでも観られるらしい)。
あいにく水納島ではボディがピンク〜紫色のセンジュは観たことがないから、真紅が最も写真映えする。
ただし海中で光を当てずに観ると地味な深緑色もしくは茶色に見えるから、その派手さに気づかず、とっておきのシャッターチャンスをみすみすスルーしてしまうかもしれない。
まずは光を当てて、ホントの色を確かめよう。
カクレクマノミの卵もカクレ
ひとつのセンジュイソギンチャクには、ペア1組と1、2匹の若魚が暮らしていることが多い。
ハナビラやセジロ同様、それらの中の最大のものがメスで、イソギンチャクにいる姿は貫録タップリ。
でもそこには責任と義務もあり、クマノミの稿でも紹介したとおり、がんばらねばならないときには誰よりもがんばる母ちゃんである。
そんな奮闘もありながら、毎年シーズンになると何度も産卵を繰り返す。
産卵床の掃除は、やはり二人の共同作業だ。
イソギンチャクの傍らの岩肌をこれでもかというくらいにきれいにしてから、卵を産みつける。
全体で見渡すと、たいていこういう場所(矢印の先)になる。
センジュイソギンチャクの裏側は特に毒があるわけではないから、卵が覆われていても害は無く、むしろ隠れることができて便利になる。
なのでカクレクマノミが陰で卵をケアしていても、他にいる3匹目4匹目に気を取られていると、卵の存在に気づけないかもしれない。
ペアがあまり表に出ていない時は、まず卵をチェックしてみよう。
すると……
親がかいがいしく卵のケアをしている様子を観ることができるかもしれない。
チビはカワイイ
クマノミの仲間の中では最も人気のあるカクレクマノミとはいえ、頼れる母ちゃんの顔は、うっかり撮り方を間違えると、素直にカワイイとは言えなくなる。
その点小ぶりなオスは、どのように撮ってもたいてい可愛く、アクビでもしようものなら……
思わず持って帰ってしまいたくなる。< ダメです。
ちなみにメスがアクビをすると、なんだか吠えているように見える……。
ま、撮り方ですけどね。
可愛いカクレクマノミを観たいなら、ペアに注目するよりも、より小さな同居人に目を向けるといい。
小さく可憐な彼らは、どこで何をしていようとも……
カワイイ♪
ラブリー♪
スウィーティー♪
齢50を過ぎたオヤジであろうと、その心をたやすくメロメロにしてしまう。
チビターレのヒミツ
ところでこのスウィーティ―♪の写真は、リーフ際の浅いところで育ち始めたセンジュイソギンチャクに住んでいる子で、そのおうちのサイズはハンドボールよりも小さな直径でしかない。
普段よく観るセンジュイソギンチャクは、どれもすでに大きく育ったものばかりだから、こんな手のひらサイズの小さなセンジュは、それはそれでけっこう珍しい。
まだ歴史が浅いしなにより小さいため、住人にオトナのペアの姿は無く、たどり着いたばかりの幼魚がいる程度の様子。
ただし住み着き始めた幼魚は、順調に大きく育つ前に個体がたびたび入れ替わる。
やはり幼魚だけでは何かとキビシイらしい。
そんな小さなセンジュに付いていた幼魚の中に、こういうタイプもいた。
おお、ハタゴで観られるような黒っぽいタイプ!
ちなみにほぼ同時に住み始めたもう1匹の子はこんな感じ。
黒くな〜い!
さらにちなみに、ここである程度育っていた子は……
この子と、もっと深いところで観られるセンジュに住んでいる同サイズのチビと比較してみると、
随分印象が違う。
こうして見てみると、同じチビでも先住ペアがいるところでは色が薄く、先住者ペアがいないところではチビは早いうちから大人と同じ色になる、ということのようで、ハマクマノミの場合と似ている。
ではハタゴイソギンチャクに観られる黒っぽい子は、いったいどういうことなんだろう?
聞くところによると、オーストラリア北部で観られるカクレクマノミの中には、黒いクマノミ同様に、3本のライン以外はすべて黒という個体がいることもあるという。
是非とも一度、出会ってみたい。
そのブラックカクレは沖縄でも観察例があるそうだから、チャンスはゼロではないはず。
黒っぽいカクレチビチビが、そのままさらに黒くなってくれれば……。
ブラックカクレになるんだろうか?
随分付き合いは長いというのに、いまだにわからないことだらけのカクレクマノミなのだった。