水納島の魚たち

カスミオイランヨウジ

全長 20cm

 家電製品であれIT機器であれ、一般的には毎年買い替えるものではないものの場合、久しぶりに新規購入しようとお店に行くと、たちまち浦島太郎化してしまう世の中になっている。

 技術の日進月歩があまりにも文字どおりすぎて、もはや製品の進化に頭がついていかないのだ。

 魚の名前もけっこう似たところがあって、今世紀に入ってから次々に新種記載されている魚たちに、我が豆腐脳はとてもついていくことができなくなっている。

 昔はちょっとした図鑑1冊あれば、それでみんな満足していたというのに……。

 新種記載される魚も、誰も訪れないような深海100mの海に潜む魚というならまだしも、それまでずっとおなじみの魚だと信じていたものが、突如別種となって再登場してくるのだから、何百種も掲載されているお魚図鑑でさえ、たちまちその情報は過去のモノになってしまう。

 電化製品なら量販店に行きさえすれば最新情報が得られるけれど、こと魚類分類学的新情報なんていったら、一部変態社会の住人のみなさんを除き、そうたやすく接することができないということも大きい。

 このカスミオイランヨウジも、2004年になって欧米きっての変態社会人アレン&クーター氏によって新種記載されたもので、それまでは誰もがオイランヨウジと同一種として認識していたに違いない。

 オイランヨウジは遊泳するタイプのヨウジウオで、底を這いずることはなく、いつもその細長い体を浮かせている。

 ただし岩の下に開いた空間や、根の奥に開けている空洞といった昼なお暗いところで暮らしているため、そういった場所を覗き込まなければ出会う機会はない。

 また、いたとしても暗がりの奥の奥だったりするし、そういう場所をわざわざ覗き込むのはゲストをご案内している時ということもあって、出会う機会はちょくちょくあっても、これまでその姿を捉えた写真といえば、フィルム時代に撮った冒頭のペアの写真のみ。

 でもまぁ、かろうじて1枚あるだけでも……

 …と思いきや、なんとこの写真のペアはどうやらカスミオイランヨウジであるらしい。

 オイランヨウジとカスミオイランヨウジの違いは、その尾ビレの模様に顕著だ。

 その違いをこの場で比較してお見せしたいところながら、なにしろ肝心のオイランヨウジの写真が無いのだからどうしようもない。

 というか、そもそもこれまで観たことがあるもののうち、オイランヨウジもちゃんといたのかどうか、写真が無い以上チェックのしようがない。

 夏場にはオスのお腹に卵がズラリと産みつけられている様子を観ることができるオイランヨウジ&カスミオイランヨウジだから、お腹のあたりも気になるところ。

 でもまずは、尾ビレに注目することにしよう。

 追記(2022年5月)

 オタマサが昔コンデジで撮った写真をハードディスクの底からサルベージしていたところ、2010年5月に撮ったカスミオイランヨウジの写真が出てきた。

 当方が記録に残していたカスミオイランヨウジの画像は、「たった1枚」ではなかったのだ。

 ペアでいたカスミオイランヨウジのうち、体がちゃんと写っているほうを無理矢理拡大してみると…

 お腹にズラリと卵が。

 早くも5月には、このようにオスが卵を保育している様子が観られるのだなぁ…。