10cm
毎年夏になると、リーフ際に光のストリームを作り出すキビナゴたち。
彼らがリーフ際に姿を見せ始めると、ニジョウサバなどキビナゴをエサとする光物系が頻繁に現れるようになり、夏も盛りになるとスマの群れもしばしばキビナゴたちに襲い掛かる。
スマたちが興奮のあまり水面をバシャバシャさせれば、それはキビナゴの群れがそこにいる目印でもあるから、遠くから目ざとく見つけたアジサシたちもまた、現場に急行する。
キビナゴたちは、海からも空からも、四六時中狙われているのだ。
海中から群れに襲われると、逃れるために洋上にジャンプすることもよくある。
いつも高い緊張感をもって暮らしているからだろう、特に誰かに狙われているわけではなくても、ベタ凪ぎの日などに付近をボートで通りかかると、ボートに近いほうから順に、キビナゴたちが作る光のウェーブが遠くへ伝わっていく。
海中から眺めるキビナゴの群れは、それはそれは美しく、川のような群れ全体が光を浴びて、いつもキラキラ輝いている。
安全停止中などにロープにぶら下がりながらその様子をボーッと観ているだけで、とてつもない至福のひとときを過ごしている気分に浸れる。
でも写真でいくら見てもその光のシャワーっぷりはなかなかわからないから、動画でどうぞ。
リーフ際の夏のシーンを作りだしてくれる魚たち、それがキビナゴだ。
ちなみにザ・キビナゴのほか、日本で知られているものにはリュウキュウキビナゴやミナミキビナゴがいるのだそうな。
でもたいてい群れでしか撮らない彼らの写真を見て、そのいずれかなんてことがワタシにわかるはずがない。
なので、水納島で観られるキビナゴっぽい魚はすべて、ここでは「キビナゴ」としているのでお気をつけください。
上の動画ではキビナゴたちは異様に慌ただしく、なんだかビュンビュン泳ぎ回っている感が強いけれど、のんびりしているときの彼らは、チリチリチリ…と光が明滅しているかのように静かに群れ泳いでいる。
朝早い時間帯だと太陽高度が低く、水中に入ってくる光線がレインボーカラーになるため、光を浴びるキビナゴが、レインボーになっていることもある。
のんびりしていたり、川のように流れるように泳いだり、ビュンビュンと光の矢のような速さで泳いだりするキビナゴたちがこのほか日中によく見せるのが、小刻み上下往復泳ぎだ。
目の錯覚なのか、実際にそうしているのか、帯状になって群れている群れの中で、1匹1匹のキビナゴたちが小刻みに上下に泳いで、全体的にはゴンズイの食事シーンのようにグルグル回っているように見える。
で、この時テキトーに撮った写真をよく観ると、キビナゴたちはかなりの割合で、まるで焼いたシシャモのように口をパックリ開けている。
他も半開き状態になっているものばかりで、それがキビナゴの通常スタイルではないのだとすれば、この動きはひょっとすると食事中ということなのかもしれない。
キビナゴたちが群れるのはリーフ際やリーフエッジ付近だけではなく、ときには桟橋脇にまで押し寄せてくることもある。
ここまで逃げてこなきゃならないこともあるというサバイバル上のことなのか、美味しいものを求めているうちに気がついたらここまで来ていたということなのかはわからないけれど、ここまで来ることがあるということは、波打ち際もまた彼らの行動範囲なのだろう。
ただし波打ち際でグズグズしていると、潮が引いた後にこういうことになってしまう。
タイドプールに取り残されてしまったうっかり八兵衛たち。
でも普段眺めるキビナゴといえば「群れ」だから、こういう時でもないと1匹をつぶさに観る機会がない。
なのでこれ幸いとばかりにお姿を見せてもらった。
それぞれはかなりとんがった顔をしているのですね、キビナゴって…。
沖縄ではスルル―と呼ばれるキビナゴは、我々が水納島に越してきたくらいの前世紀終盤くらいまでは、まだ本部町内のスーパー(らしきもの)でも県産スルル―が売られていたものだった。
ところが今の世の中、こういった沿岸魚を漁獲して生計を立てているウミンチュなど絶滅危惧種だから、畢竟キビナゴたちも流通経路に上らなくなってくる。
でもところ変われば漁業も違い、かつて訪れた鹿児島市内ではキビナゴのから揚げが名物だったし、先年訪れた五島列島は福江島でもまた、キビナゴが重要な水産資源として圧倒的な存在感を誇っていた。
2017年2月@五島市福江魚市場
籠の中の1匹1匹に注目してみると、水納島のタイドプールで取り残されていたキビナゴたちと変わらぬフォルムに見える。
ただ、タイドプールで取り残されているような少数でいるキビナゴは水納島でも大きいものがいるのだけれど、夏場に川のようになっているものはずいぶん小柄で、このサイズじゃとてもじゃないけど水産資源にはならなそう…と思えるものばかり。
市場で水揚げされているキビナゴを見ると、そのサイズの差に驚かされる。
これは水納島の夏にリーフ際で群れているものがザ・キビナゴとは種類が異なるからなのか、単にまだ若いからなのか、どっちなんだろう?
ところで、キビナゴが水産資源として広くあまねく流通している五島では、居酒屋で出てくるキビナゴもかなりのビジュアル系だった。
これはこのお店オリジナルの盛り付けなのかと思いきや、キラキラ輝く菊の花のような盛り付けはキビナゴの刺身の一般的な盛り付け方らしく、JAマーケットでパックで売られているものも…
同じようにキラキラ光る菊の花だった。
ちなみに、この1パックで300円ぽっきり。
ところが、今年(2022年)鳴り物入りでリニューアルオープンしたイオン名護店の鮮魚コーナーでは、この半分弱の量の鹿児島産キビナゴのお刺身が、1パック400円もした。
かつては現地で溢れるほど獲れて庶民の食卓に欠かせなかったスルル―も、獲るヒトがいなくなれば海の向こうから来る高級食材になっているのだった。