全長 12cm
キスジキュウセンは、図鑑的には沖縄でもごくごくフツーに観られる魚、ということになっている。
ただし彼らが好んで生息するのは、砂底が広がる場所で、なおかつ死サンゴ石や礫が広範囲に密度高く転がっているようなところっぽい。
砂底には事欠かない水納島ながら、そのような場所を有するところが限られているためか、キスジキュウセンは幼魚から若魚くらいのチビはフツーに観られても、オトナ、それも完熟オスに会える場所は随分限られている。
ただしその「限られた場所」に行けば、わりとフツーに出会える完熟オス。
白い砂底にいるキスジキュウセンのオスは水彩画のように淡い色彩で、毒々しくハデハデな他の仲間とは一線を画す趣がある。
ただしこれが白い砂底環境ではない環境になると、やっぱりけっこう毒毒ハデハデになるらしい…。
「オス」に比べるといたってシンプルな柄のメスは↓こんな感じ。
よく見ると顔のあたりにもうっすらと模様があるけれど、海中では無いに等しいくらい目立たない。
「オス」よりは2周りほど小さなこのメスたちが、「オス」の縄張り内に5匹前後いるらしい。
不思議なことに、最初はオスの周りに他の誰も観えなかったのに、気がつけばメスたちが集まっていたりする。
なんだかオスがひと声掛けて呼び集めたかのようにさえ見えた。
「オス」姿しか見えなかったからオスを撮っていたところ、ファインダーの中でなにやらオスがヒレを広げたりしてポーズを決め始めたので、「?」と思っていたら、こういうことだった。
ワタシ的には、ヒレを広げているオスを撮ろうとしているところへメスが邪魔を…という状況なのだけど、そもそもオスはこの相手に対してアピールするためにこのようにヒレを広げていたらしい。
手前のほうもヒレを広げているところをみると、求愛というわけじゃなくて、縄張り内でやたらめったらメスがオスに性転換しないようにするための「オス」の牽制アピールなのかも(ちなみに撮ったのは1月のこと)。
砂底付近を低空飛行で泳いでいるだけあって、やはり彼らもエサは底物がもっぱらのらしく、砂中のエサゲットマスターのヒメジ類がエサを探していると、おこぼれ目当てにイソイソと駆けつけては行動を共にする。
完熟オスも黄スジといえば黄スジながら、スジ自体の色味もその他の模様もけっこう複雑になっているので、幼魚や若魚だけ見慣れている目には、単独でいられると一瞬誰だかわからなくなるほど。
一方、水納島でもフツーに観られるチビの頃は↓こんな感じ。
水納島で観られるチビたちはたいていこのように黄色いスジで、同サイズくらいのものがなんてことのない小岩の周りにたむろしている。
同サイズでも、稀に↓こういう色のものもいる。
伊豆や伊豆諸島あたりではこのような色味のもののほうが多いそうな。
でもこれじゃあ、全然「黄スジ」じゃないじゃん…。
水納島で観られるものは、さらに小さな2cm未満くらいのチビターレでも、ちゃんと「黄スジ」になっている。
よりによって脱糞中画像しかないのは、小さすぎてクラシカルアイでは撮っているときにウンコまで観えていなかったからにほかならない…。
キスジキュウセンといえば、このように白地に黄色(時には赤色)のラインで、その色味のまま大きくなってメスになり、選ばれし勇者がオスになる、という流れだとばかり思っていた。
ところが。
2017年の暮れにオタマサが、こういう写真を撮っていた。
とても成魚サイズとは思えない小さなベラで、体形といい色味といい、ワタシはこれをオグロベラのメスからオスになる途中の状態なのではあるまいか、と解釈してしまった。
ところが今回図鑑やネット上でキスジキュウセンの写真をいろいろ見てみたところ、なんとこれはキスジキュウセンのメス段階相当の色味(のひとつ)なのだとか。
たしかに疑うべくもない「黄スジ」とはいえ、まさかこんな淡いブルー地になるなんて…。
これ以前に撮った写真を探してみると、上の子よりも大きいと思われるキスジキュウセンの青っぽい若魚クラスの写真があった。
でもこの若魚には尾ビレの付け根付近に若魚印の黒点があるし、青く見えるのははストロボ光が弱いために青かぶりしているだけ……と思っていた。
これに比べて体が小さく、なおかつ尾柄部には黒点が無く、そして淡くともハッキリと青いチビベラが、まさかキスジキュウセンのメス段階とは…。
思えばこの写真は、キスジキュウセンのオトナにはそうそう会えない別の砂地のポイントで撮られたものだった。
そういう場所に流れ着いて育っているチビの周りにはオトナがいないから、早い者勝ちでとっととオトナになっちゃえ!
……ってことで、早くもオスになろうとしているチビ……ってことなんじゃなかろうか。
真相はともかく、とにかくじっくり観てみたいなぁ、クリアブルー・キスジチビ。
キスジキュウセンであってますよね?