全長 50cm(写真は15mmほどの幼魚)
ダイバーが普段訪れるよりもさらに深いところで暮らしているからか、それともそもそも数が少ないのか、キツネベラのオトナに海中で出会ったことはこれまで一度もない。
ところがチビターレは毎年お馴染みの魚で、春頃からポツポツ観られるようになる。
近年はかなりコンスタントに出会えるようになっている幼魚ながら、かつてはまったく観られない年もあるなど、年によって出会う頻度の増減があった。
おそらくそれは、どこかで生まれた幼魚もしくは卵が、水納島周辺まで来るか来ないか、ということに左右されているのだろう。
出現当初は相当小さく、透けるほどの体にブルマを穿いているような黒い模様、そして頭部の黄色が可憐なキツネベラ・チビターレ。
なんてことのない岩肌の周りで、目立たぬ程度に何かを物色していることが多い。
これくらい小さいとせいぜいその岩の周りをウロウロするくらいだから、ずーっと観ていられる。
もう少し成長して3cmくらいになると……
まだかろうじてブルマちゃんではあるものの、なんとなくタキベラの仲間っぽいふてぶてしさが表れ始めてくる。
行動範囲も広がって、待っているところに戻ってきてくれなくなるなど、だんだんつれなくなってくるキツネベラヤング。
かつての水納島では、キツネベラといえばこれくらいのサイズまでだった。
前述のとおりオトナはまったく観られないのに加え、成長途上の姿もだいたいこれくらいが限度だったから、いったいキツネベラたちはこのあとどこに行ってしまうんだろう?と首をひねっていたものだった。
ところが。
2018年8月末に、さらに育っているキツネベラに出会った。
5cmくらいのこの幼魚、その体表には赤いラインが出てきている。
赤いラインが出てきているキツネベラの幼魚だなんて、ひょっとしたらこの時が初めての出会いだったかもしれない。
にもかかわらず、「お、ちょっと大きくなったキツネベラの幼魚」的に軽く撮って終わってしまい、しかもそのジジツはあっさり大脳辺縁系から海馬の奥底へと沈み込んでいった。
そのままだったら二度と思い出すこともなかったかもしれない。
ところが。
翌年のGWに、もっと成長して10cmほどになっているキツネベラと出会えたのだ。
GW終了と同時にさっそく撮りに行ったら、縄張りを持つタイプの魚らしくほぼ同じ場所に居てくれた。
まだまだ幼さを残しつつも、黒い模様は縮み始めており、もうブルマちゃんとは呼べなくなっている。
泳いでいる時はこのようにまだ白味が強い体は、ホンソメワケベラにクリーニングをお願いしている時には随分赤っぽくなった。
こうなると、ややオトナの面影といって良さそうなモノが出てくる。
人間でいうなら、声変わりした中学1年生男子といったところか。
前年やや大きな幼魚に出会った場所(この時そのジジツを思い出した)とほぼ同じところだったから、おそらく同一個体なのだろう。
この2か月後には……
元ブルマは一段と縮小して、オトナで観られるくらいの比率になっている一方、体のサイズは15cmほどと、もはや完全にタキベラ属の仲間といった雰囲気に。
驚いたことに、この数日前にはここから300mほど離れた別のポイントで、25cmほどにまで成長したキツネベラの若魚にも会っていた。
この段階まで育ったキツネベラなんてこれまで出会ったことがなかったというのに、なぜだかこの年(2019年)は、少なくとも2個体が水深20m前後でウロウロしていたのだ。
このひと月後の7月末にもまだ彼は健在だった。
ここからかつてのブルマちゃんの姿を想像するのはムリかも……。
この頃にはエサの食べ方も大胆になっていて、砂中のクリーチャーを狙っている。
おあつらえ向きにリュウキュウヒメジがワッセワッセと砂を掘り返してエサを探しているところに、ちゃっかり便乗しているキツネベラ若様。
そして今年(2020年)5月には、すっかり大きくなった(30cmくらい)キツネベラほぼオトナが、前年よく観られた場所にいるのが遠目に見えた。
はたしてチビの頃から観ていたものと同じ個体かどうかは不明ながら、周囲のヨスジフエダイに比してこのサイズは存在感たっぷり。
これならこのあたりにいたまま、50cmくらいの巨大オトナになってくれるかも…
…というのは無理な話か。
※追記(2023年2月)
年明け早々の1月序盤(2023年)に、リーフ際で大きなキツネベラに出会った。
50cmほどの巨大オトナというわけにはいかず、先に紹介している「ほぼオトナ」と同じくらいのサイズではあるものの、今回はけっこう近づくことができたおかげで、それなりに撮れた。
ある程度ちゃんと撮れたという意味で、人生最大級更新だ。