全長 25cm
一般的にアジの仲間といえば、リーフの外の潮通しのいい環境にいるイメージがある。
ところがこのコバンアジは、リーフの外で目にすることはまずない。
穏やかな浅いところが大好きなのだ。
水納島の場合、そんなコバンアジたちが暮らすのに最適の場所は、なんと海水浴エリア内になる。
そのため水納島でボートダイビングをしている多くのダイバーはまったく会えないのに、ビーチで海水浴をする大勢の老若男女がコバンアジと出会っていたりする。
雑貨屋さんの実店舗をオープンしていた頃は店内にビーチで撮ったこのコバンアジのポストカードも並べてあったので、海水浴中に目にしたお客さんたちの、
「この魚観た!」
という声をよく耳にしたものだ。
海水浴客の中には餌付けをしているヒトたちがいるから、コバンアジたちはみんなヒトを怖がることがなく、むしろエサ目当てに寄って来る。
そのためコバンアジの数が多いときには、彼らの群れに囲まれることもあるだろう。
そしてシーズンが終わってお客さんが来なくなると、コバンアジたちはとても腹を空かせている。
そんなシーズンオフに、誰もいないビーチでタンクを背負って潜ってみると、たちまちコバンアジたちが駆けつけてくる。
あいにくエサなど何も持たぬワタシなので、なんとなく
「チッ……使えねぇヤツ。」
というコバンアジたちのセリフが聴こえてきそうな雰囲気が……。
ま、なんと思われていようとも、向こうから寄ってきてくれるのだから、写真を撮る分にはありがたい。
ただ。
水納島の場合、コバンアジを撮っていても、ひとつだけ物足りない感が。
たとえば、同じように島のリーフ内の浅いところにコバンアジたちがたくさん群れているモルディブの島でコバンアジを撮ると……
モルディブ・ヴィラメンドゥにて@2000年
背景にココナッツ!!
ところが水納島となると、半水面で撮ったら……
背景に監視台!!
これが沖縄の限界か?
< 違うと思います。
海辺に椰子の木は望めないにしても、コバンアジが好む環境なんていったら、沖縄じゅうどこにでもありそうなもの。
しかし。
離島ならいざ知らず、本島の数あるビーチがどんどん「人工ビーチ」になっているということは、すなわち本来の自然環境のほとんどが開発で失われてしまっているということでもある。
コバンアジと戯れることができる自然海岸は、沖縄本島周辺ではとても貴重な環境なのだ。
とはいえ水納島のビーチも、昔に比べれば「自然度」がどんどん損なわれていく一方だから、コバンアジたちにとっていつまで住み良い海であり続けられることやら。
昨年(2019年)オフシーズンになってから、晴れた日に誰もいないビーチで潜ってみた。
腹を空かせているであろうコバンアジたちが、大集合してくれるかもしれない♪
…と期待していたところ、ワタシと戯れてくれたのは…
ほんの数匹のみ。
そのひと月ほど前に雑貨屋さんを訪れたお客さんたちが、「たくさん群れていた!」とおっしゃっていたのになぁ…。
ひょっとして釣られちゃったか。
コバンアジは、なにげに美味な魚として知られているのだ。
このままじゃビーチからコバンアジたちは絶滅しちゃうかも…
…という心配をよそに、泳ぎ回るコバンアジは呑気にアクビをしていた。
コバンアジは、観ているとかなり頻度高くアクビをするのだけど、だからといってけっして呑気というわけではないのだろう。
環境さえ良ければ、他所で繁殖したコバンアジたちが再びビーチにたくさん集まって定住してくれることだろう。
その環境がだんだん心もとなくなっているのが、ただただ気がかりなのだった。