全長 2cm
世界的なサンゴの大規模白化が起こったのは1998年のことで、水納島でもリーフ内やリーフ上のサンゴたちを中心に、浅いところに群生していたサンゴたちがほぼほぼ壊滅してしまった。
真夏の数か月間に台風がまったく来なかったことが災いし、海水温が異常に高止まりしたこと(水深30mでコンスタントに30度あったほど…)が主な理由とされているこの白化現象は、98年の規模ほどではなくとも、局地的にはチョコチョコ発生している。
それでも2016年には、98年の再現か!?と覚悟を決めかけたほどの、規模の大きなサンゴの白化が起こった。
大潮の干潮時には干出するくらい水深が浅いところでは、ミドリイシ類をはじめとするかなりのサンゴがやられてしまった。
しかし普段ボートダイビングやスノーケリングで訪れるくらいの水深があるところでは、一時的にパステルカラーから白くなってしまったサンゴの多くが、デッドラインギリギリのところで踏ん張り、元の姿を取り戻した。
その2016年の9月、リーフエッジ付近のサンゴがパステルカラーから白になりかけていた頃のこと。
白っぽくなってしまったテーブル状サンゴの上で、ヒョコヒョコしているコバンハゼの仲間の姿が目にとまった。
この当時はまだコバンハゼのバカボンパパ風散歩行動を知らなかったから、コバンハゼの仲間がこんな開けっぴろげにその身を晒すなんて…と驚いたものだった(左端に小さめの子もいます)。
どうやらこのハゼたちもコバンハゼのようにバカボンパパ風散歩をしていたらしく、サンゴが折り重なって成長しているために形成されている陰から、出たり入ったりを繰り返していた。
それまで観たことがないコバンハゼの仲間だったし、撮ってくださいと言わんばかりにその身を晒してくれていたので、とりあえず撮っておいた。
後刻ハゼ変態社会御用達図鑑「日本のハゼ」で調べてみたところ、これはその図鑑で「コバンハゼ属の1種-2」と表記されている種類らしいことがわかった。
2004年刊のその図鑑では学名も和名もない状態だったこのハゼは、2005年には新種記載されたらしく、いつの間にやらアワイロコバンハゼという素敵な和名もつけられている(2021年に刊行された「日本のハゼ」新版では和名付きで掲載されている)。
随分前から知られているにもかかわらず、我々は2016年になるまでその存在を知らずにいたのは、普段の彼らがサンゴの日陰部分で過ごしているため、その存在に気づけなかったからかもしれない。
それが白化の際にはエサに困った彼らがヒョコヒョコ外に出ていたところを観ることができた、ということだろうか。
同じころオタマサは、テーブル状ではないサンゴの枝間で、このコバンハゼの仲間を撮っていた(大小2匹います)。
このテの小さいハゼたちなら、どんなに撮影しづらい状況であってもとりあえず撮っておくオタマサですら、これ以前にはこのアワイロコバンハゼを撮っていないということからしても、やはり白化がその存在を知らしてくれるきっかけになったのかもしれない。
では、白化していない状況なら、いったいどういうところで観られるのだろう?
その後このコバンハゼの仲間も気にかけるようになっているオタマサによると、↓こういう枝ぶりのミドリイシの仲間でよく見かけるという。
なんとまぁ、枝間の狭いこと……。
でも直径20〜30cm程度の小さな群体でもチョロチョロしている姿が観られた。
サンゴ群体は小さいのに大小が複数いたので、観やすいといえば見やすい。
ジッと待っていると、ひょっこり姿を現してくれた。
ん?
これって、かつて白化の際に観たあのコバンハゼの仲間とホントに同じ種類か??
もう少し小さな子もチョロチョロしていたから撮ってみた。
んん?
ホントに同じ種類??
色味が異なるのは住処のサンゴのせいかもしれない。
ではその模様は同じだろうか?
ワタシのようなガサツな人間や、オタマサのようにガサツじゃなくても細かいところに気がつかない人間には「同じ」でいい範疇ながら、変態社会ではおうおうにしてこのくらいの差異なら平気で別の種類にしてしまんじゃ??
成長段階の違いによる個体差かもしれないけど、なんだか顔の輪郭も吻の出っ張り方も、別モノに見えるなぁ……。
じゃあ正面顔は??
模様が違うっぽ〜い!
よく考えてみれば、そもそも住処にしているサンゴの種類が全然違うものなぁ……。
そもそも「淡色」じゃないし。
……ってことは別種か。
もっと大きくなるとタスジコバンハゼの特徴が出てくる…とか??
白化の際に観た謎のコバンハゼの正体がわかったと思ったら、新たに(個人的に)ナゾのコバンハゼが登場してしまった。
このライトグリーンに見えるほうのコバンハゼの仲間の正体、ご存知の方はテルミープリーズ。
※追記(2021年7月)
アワイロコバンハゼには、白化の時くらいじゃなきゃ会えないのだろうか…と諦めかけていた今年(2021年)5月、ようやく再会の機会が訪れた。
成長が進み二段になっているサンゴが作る日陰にチョコンと佇むアワイロコバンハゼ。
自らの成長のあおりで永遠に陰になる場所になってしまったからだろう、その部分の褐虫藻が抜けて、サンゴがそこだけ白くなっている。
こういう色合いのところにいる分には、アワイロコバンハゼの淡い体色は隠蔽効果があるのかもしれない。
近寄るとすぐさま逃げてしまうかな…とダメ元で近寄ってみたところ、思いのほか頑なにこの場を離れず、なにやらチョコマカ動いて向きを変えながらも、ずっと同じ場所に居てくれた。
しばらく観ていると、ただチョコマカ動いているだけではなく、何か目的を持って素早く動いているフシがあるように思えてきた。
はて、これはいったい何をしているのだろう?
その答えは、同じ場所で同じくチョコマカ動いていたコバンハゼが教えてくれた。
どうやらアワイロコバンハゼもまた、サンゴの枝間の何かを食べているらしい。
彼らがサンゴの枝間の何を求めているのかまではわからないけれど、ともかくアワイロコバンハゼは、元気なサンゴの裏長屋的なひっそりしたところが好きなようだ。