全長 9cm
今も昔も、ベラ類を被写体にする人は多くはない。
それもそのはず、彼らときたら、ちょこまかちょこまかセワしなく泳ぎまくり、とらえどころがない………いや、捉えられない魚たちなのだ。
なのでこういう魚を撮影する人たちというのは、
のいずれか、もしくはすべてに該当すると断定していい(大御所水中写真家の大方洋二さんは、ご自身のブログで「この手の魚を見ると燃える」と書かれていた)。
残念ながらワタシはそのいずれでもないので、頑張ってもこの程度以上の写真は撮れない。
それでも、ベラ類、とりわけイトヒキベラ類とこのクジャクベラの仲間たちは、とっても好きな魚たちのひとつである。
なんといっても、一瞬一瞬に見せるオスのディスプレイの美しさ。
画像では海中で味わえる輝きの10分の1も表せていないものの、通常状態との色の違い、おわかりいただけますか?(特に尾ビレのあたり)
繁殖時期や時間帯に関係があるのか、四六時中見られるわけではないけれど、婚姻色を出し、囲っているメスに向かってヒレを目一杯広げ、存分に己をアピールするその姿ときたら………。
< そう思うヒトたちのことを変態っていうんじゃ……?。
ただしいくら美しいといっても、観ている間に占める割合で言えば、圧倒的にヒレを閉じている時間のほうが長い。
ガイドが指し示したときがこの状態で、これだけを観て「ふ〜ん、クジャクベラね…」で終わってしまったのではあまりにも惜しい。
水納島ではクジャクベラはチビターレならポツポツ目にする機会はあるものの、立派なオスとなると千載一遇のチャンス。
…のはずなのに、時にはこういうこともある。
これは2010年のことで、この年はこの場所限定ながらいつでもクジャクベラに会うことができたっけ…。
このままクジャクベラワンサカ状態になるかも…という淡い期待もむなしく、クジャクベラバブルは今のところこの年だけで終了している。
※追記(2025年3月)
その後はバブルどころか、オスに関しては2014年にかろうじて一度1匹と遭遇したことがあるのみで、少なくとも画像記録はその後10年間皆無、記憶をたどってみても、何かに混じっているチビチビは何度か目にしてはいても、オスを観た覚えはまったくない。
それが昨年(2024年)3月、実に10年ぶりに再会することができた。
ゲストをご案内している時ならまず訪れない辺鄙なところで、航路から続く急斜面が終わる水深20mほどのガレ場には、クロヘリイトヒキベラに混じりゴシキイトヒキベラの姿も見えるなど、そういう環境が好きそうなベラ類が集まっているだけ。
それも全体的にみんなサイズが小さく、オスたちも特にやる気モードになっているわけでもないからいまひとつパッとしない。
なのでフツーだったらそのままスルーするところ、小ぶりなイトヒキベラ類たちに混じって、一番星のようにキラリと光る魚が。
クジャクベラのオス!
砂底のこういう場所では、後刻調べてようやくクジャクベラだとわかる幼魚がせいぜいで、このクジャクベラもほんの4cmほどのチビだというのに、背ビレがピンピンピンと3本も伸びているという、紛れもないオスの姿だったから驚いた。
イトヒキベラ類は多くとも、周囲には他に1匹もクジャクベラの姿が無いところからして、小さいうちにオスへと性転換したのだろう。
ロンリーライフを送っているスモールクジャクベラ、この先どうなっていくんだろう?
その6日後に再訪したところ、クジャクベラはあっけなくGone…(涙)。
一期一会の儚さとはいえ、けっして長くはなかったであろうチャンスに巡りあえたのだから、それはそれでとても幸運なことだったのだろう。
次回のチャンスまでまた10年かかるかもしれないクジャクベラのオス、水温20度に耐えた甲斐があった…。