水納島の魚たち

クラカケベラ

全長 20cm

 クラカケベラはイラ属のベラで、本家イラは沖縄ではまず観られないかわりに、「珍」ベラのところで紹介しているシチセンベラも同じイラ属になる。

 また、沖縄県三大高級刺身魚として有名なマクブことシロクラベラも同じイラ属だ。

 他にもクサビベラという種類が沖縄に分布しているようながら、広い内湾の海藻が群生するような浅いところを好むらしく、そういう環境に恵まれない水納島ではこれまで観たことがない。

 シチセンベラはかなり少ないし、シロクラベラはいるけど深いところが大好きで、クサビベラが暮らす場所はないとなると、クラカケベラは水納島で最もフツーに観ることができるイラ属の魚ということになる。

 クラカケベラはサンゴ礫が転がる砂底が好きらしく、砂地の水深10m〜20mくらいの海底付近でエサを探している姿がよく観られる。

 図鑑などではもっと体色が濃くなっているものも見かけるけれど、白い砂底環境の水納島では、クラカケベラといったらおおむねここで紹介しているような色をしている。

 ただ、過去に撮った写真を見ていたところ、ときおり↓このように各色がウスラボンヤリしているものがいた。

 これはグループ内の力の差とか、雌雄差なんだろうか…

 …というギモンは記憶だけでは解決しないため、これをアップする前にさきほど(2021年1月)潜って確かめてきたところ、クラカケベラは体色をボンヤリモードからクッキリモードに自在に変えることを知った。

 リュウキュウヒメジと一緒になって餌を探している時は↓こういう色をしていたものが…

 ワタシが接近したことによってその場を離れ、さりげなく逃げていこうとする時には…

 黒も黄色もかなりクッキリして(同一個体です)、その後ほどなく……

 全体的に濃くなって、黒い部分の周辺に苦み(?)が出てきた。

 というわけで体色の濃淡は、力の差でも雌雄差でもなんでもなく、単に気分のモンダイだったようだ。

 一連の体色変化を見せてくれた子は10cm未満のメスで、20cm弱くらいの1匹のオスの周辺に複数匹いる。

 普段の雌雄は、群れるでもなく離れるでもなく(それでも20mくらいは平気で離れるけど)、みんな同じように海底でエサ探しに明け暮れている。

 優しげな顔に見えるクラカケベラながら、その歯は鋭そうで……

 砂ごとガブリと食らいつき、そのスルドイ歯でしっかりホールドしつつ獲物をゲットするらしい。

 そして不必要な砂だけ吐き出す。

 クラカケベラ、怒らせると怖いかも…。

 このような食性だけに、砂中に潜むエサ捕り名人のヒメジ類についてまわっていることもよくある。

 海底にはエサにだけ用があるのかと思いきや、オスと思われる大きめの個体が、海底のサンゴ礫をくわえてはそのまま泳いで特定の場所まで運ぶ作業をなにやら意味ありげに繰り返しているのを昔観たことがある。

 近年に比べればもっとたくさんクラカケベラがいた気がする前世紀末頃の話だから、20年以上経った今こんな話を思い出しても、自分ですら夢だったんじゃないかという不安を感じなくもない。

 ヘタをすると本気で夢かもしれないから、そういう話は世間に出ていないかどうか調べてみたところ……

 ありました

 そうか、あれは寝床を作っていたのかぁ…。

 著者の名波さん、積年の疑問に応えてくれてありがとうございます。

 何を調べてもそのような報告が無かった当時に比べれば、アカデミック変態社会も相当進化しているんだなぁ……。

 < でもリンク先の論文は1999年ってなってますぜ。

 あら?

 そうか、進化したのは、ワタシのようなものでもパソコンひとつでこのようなことを知ることができるようになった社会のほうだったか…。 

 ともかく個人的には20年以上ぶりに明かされたシンジツである(15年前に同じように驚嘆していたかもしれないけど…)。

 当時はクラカケベラといったら砂地のポイントで潜れば大きめの個体にもすぐに会えるくらいフツーにいたのだけれど、2010年前後の数年間、なぜだか全然姿が観られなくなった時期があった。

 ここ数年は(2021年1月現在)その頃に比べれば随分コンスタントに観られるようになっているけれど、それでも当時堂々と寝床づくりをしていたオスのように立派なサイズの個体は減っているんじゃないかなぁ…。

 ま、立派とはいってもせいぜい20cmくらいの「ベラ」だけに、多くの人にとっては砂底の目の端キャラなのだろう。

 オスメスでほとんど体色に差が無いクラカケベラながら、オスになると体形に若干の違いが出てきて、頭部がやや立派になってくる。

 ただ、近年はその立派なオスになかなか巡り会えず、せいぜい↓こんな感じ。

 一見しただけだと薄っぺらい体つきの魚のようにも見えるクラカケベラながら、そこはマクブの仲間だけに前側から見ると……

 …こんなにぶっとい魚だったの?と気づくことになる。

 一方、春にはチラホラ姿を見かけるようになるチビターレは、ベラだけあってさすがに親とは異なる体色だ。

 これで2cmくらいだろうか。

 こんなチビチビではあるけれど、ちゃんと食事してウンコして……

 …もう少し成長して3cmくらいになると(同一個体ではありません)、

 ほんの少しだけ模様が変わる。

 ホントに微細な変化にもかかわらず、どことなくクラカケベラっぽくなっているように見えるのは気のせいだろうか。

 5cmくらいになると…

 すっかりオトナっぽくなりつつ、ビミョーにチビ時代の面影を残している。

 こういうチビターレが毎年現れてくれるかぎり、いつぞや観た「寝床作りシーン」にもまた出会うことができるかもしれない。