水納島の魚たち

クロフチススキベラ

全長 15cm(写真は2cmほどの幼魚)

 若魚〜メスのクロフチススキベラは、ホクトベラの若魚〜メスにそっくりな色形をしている。

 違いは黄色い尾ビレの黒い縁の有無。

 その名のとおり黒縁があるものがこのクロフチススキベラだ……

 …という話を紹介するためには、なによりもまずクロフチススキベラの若魚〜メスの写真がほしいところ。

 なんとなくフツーに目にしてる気がしていたので、フィルム時代も含め、フツーに写真を撮っているだろう……

 …と思いきや。

 なんてことだ、クロフチススキベラのオトナの写真が1枚も無い。

 フツーに目にしているのに撮っていないだけなのか、それともそもそも出会えていないのか。

 そこでこの冬(2020年〜2021年)は、潜るたびにクロフチススキベラチェックをしていた。

 しかし。

 どうしたことだ、まったく会えない。

 過去に撮った写真では、かろうじて幼魚の写真はあった。

 あれ?

 この写真、砂地の水深25mほどの根で撮ったものじゃん。 

 フィルム時代に撮っていたチビの写真も、わりと深めっぽいところでウミシダの周りにいたものだった。

 クロフチススキベラのチビターレって、そんな深いところにいるものなんだっけか。

 たまたまこのオレンジのヤギにいたわけではなく、ポリプもしくはポリプの間の何かを物色しているところからして、能動的にここにいたらしいチビターレ。

 ってことは……ありゃりゃ?

 ひょっとしてクロフチススキベラって……

 慌てて図鑑やネットで調べてみたところ、なんてことだ、クロフチススキベラってそもそも深いところ、それもドロップオフのような潮通しバッチリの環境大好きベラなんじゃないか!

 そりゃリーフ際をいくら探してもいないはずだわ…。

 こうなると過去にホントに若魚〜メスのクロフチススキベラを目にしたことがあるのかどうかさえ、まったく定かならなくなってきた。

 ベラの仲間たちを紹介するたびに課題が増えていっている気がするけれど、「クロフチススキベラを探せ!」は、今年の大きなテーマのひとつに昇格したのであった。 

 追記(2021年5月)

 クロフチススキベラとの出会いを2021年の課題の大きなテーマのひとつに…

 …と決意したことなどすっかり忘れかけていたGWのこと、ゲストをご案内中に、ついにオトナのクロフチススキベラたちと遭遇!

 …したものの、ゲストご案内中ゆえに写真は撮れず。

 後日カメラを携えて再訪してみたところ…

 いた。

 GW中に観たときは若魚〜メス1匹しか確認できなかったのに、よく観ると1匹のオスがハレムを形成していて、オスは体の真ん中付近の色が明るく帯状になる婚姻色を呈していた。

 あいにくその婚姻色モードはワタシの出現で警戒モードになったせいかアッサリ終わり、オスはノーマルカラーに戻ったものの、大小様々なクロフチススキベラを一度に観ることができてしまった。

 もう少し小さな個体も……

 図鑑で観るかぎりではホクトベラに似ているとずっと思っていたクロフチススキベラ。

 ところが海中で観るそのたたずまいは、ホクトベラとはいささか違いがある。

 ホクトベラは泳いでいる合間合間にすべてのヒレを広げた姿をわりと見せてくれるのに、クロフチススキベラときたら、泳いでいるときはもちろん、のんびりしているときですら、尾ビレをなかなか広げてくれないのだ。

 ホクトベラがいるような浅いところなら、ヒレを広げてくれるまでずっと待っていられるけれど、クロフチススキベラがいるあたりといえばスミレナガハナダイがハレムを作っているような深い場所だから、すぐタイムリミットを迎えてしまう。

 そのため結局証拠写真で終了。

 ま、なにはともあれ初クロフチススキベラのオトナ写真、危うく忘れかけていた今年の大きなテーマのひとつは、これにて早くも目標達成だ。

 追記(2022年12月)

 今年はどういうわけかクロフチススキベラの当たり年だった。

 それぞれ異なる砂地のポイントで、↑これくらいのチビターレを1匹ずつ見たほか(それぞれしばらく居続けてくれた)、別の砂地の根では、オトナ模様になっている若魚1匹に遭遇した。

 合計してもたった3匹ではあるけれど、これまでの砂地のポイントにおける遭遇頻度に鑑みれば、当たり年といってもさしつかえあるまい…。