全長 20cm
かつて水納島では、クロイトハゼを見る機会はほとんどなかった。
たまに見ることがあったとしても、たまたま流れ着いたとしか思えない幼魚〜若魚が単独でいるくらい。
↓若魚。
↓幼魚。
そして↓激チビターレ。
その他、ごくまれに若魚がペアになっているのが関の山だった。
ところがどういう風の吹き回しか台風の吹き飛ばしか、2009年6月、ついにクロイトハゼのオトナペアに出会えた。
それまで観てきたクロイトハゼのサイズに比べると、とてつもなくでかいクロイトハゼのペアだ。
でかすぎて画面に入れきれなかった…。
「黒糸」の黒が、やや褪せて褐色になっているのはストロボの加減かもしれないけれど、ペアのうち片方のお腹は、パンパンに膨らんでいる。
きっと卵なのだろう。
最初からなんとなくアヤシイ動きをしていたこのペア。
その周りを見渡すと、10m四方の範囲に5ヶ所くらい、まるでピラミッドのように形作られた、高さ20〜30cmほどのサンゴ礫の山があった。
はて、何だろう?
…と不思議に思っていたところ、なんとなんと、この山は、クロイトハゼが巣作りをするために吐き出したサンゴ礫の山だった!!
この小山の脇に巣穴の入り口があって、どうやらその内部の拡張工事をしている最中らしく、食事同様夫婦がかわりばんこに巣穴の中に入っては、外に出てきて大量の小石を吐き出す。
吐き出す。
吐き出す。
吐き出す。
吐き出す。
そして大きめのサンゴ礫は、くわえて運びだす。
卵でパンパンに膨らんだお腹を抱えながら、メスもオスと一緒になって工事に勤しんでいた。
この巣作りの様子を撮ろうとして近寄ると、彼らは作業を中止し逃げてしまい、ある一定距離以上には近寄らせてはくれない。
ただし逃げるといってもこのピラミッドが散在する10m四方からは離れず、隣のピラミッドに行ったかと思えば、また戻ってくるという具合で、どうやらその範囲がナワバリのようだ。
このあとどうなったのかは確認できなかったけれど、どう考えてもこれは産卵に至るまでのクロイトハゼの儀式の一環なのだろう。
同じ年の8月に同じ場所に行ってみると、メスのお腹は膨らんではいなかった。
アカハチハゼのようにペアでホバリングしながら、ほぼかわりばんこに海底の砂を口に含んでは、エラから砂粒をバラバラこぼす、通常モードの暮らしになっていた。
それまではたまたま流れ着いた幼魚〜若魚がチラホラ観られるのみだったクロイトハゼ。
水納島周辺でも繁殖をするのであれば、今後普通に観られる魚になるのかもしれない?
…と期待を抱いていたものの、オトナのクロイトハゼが観られるのは今もなお限られた場所のみで、爆発的に増える様子は今(2020年1月現在)のところ微塵もない。