水納島の魚たち

キイトハゼ

全長 8cm

 ヒメクロイトハゼを初めて撮ることができたその同じ日(2014年10月2日)に、同じような場所で同じようなハゼに出会った。

 同じようには見えても、顔周辺に黒点が無いし、体の黄色いラインもいささかヒメクロイトハゼとは趣が異なる。

 はて、誰だろうこのハゼ?

 ……と、当時思ったのか思わなかったのか、まったく記憶に残っていない。

 なにしろ過去に撮ったヒメクロイトハゼの写真をまとめて見ている際にも、「ヒメクロイトハゼのオトナかな?」と思ったほどだから、出会った際もそう誤解していたかも。

 でも今回すんでのところで「なんか違う…」と気づき、さっそく「日本のハゼ」@平凡社で調べてみたところ、このハゼはまだ和名がついていない「クロイトハゼ属の1種」なのだった。

 ウーム……そういえば、以前も同じように調べ、そうかそうだったのか!と膝を打ったような気もする……。

 でも今となっては撮影個体のサイズさえ覚えていない。

 かろうじてヒメクロイトハゼのオトナかな?と思ったような記憶があるところをみると、少なくともヒメクロイトハゼよりは大きかったのだろう。

 ひょっとしてその後和名がついているかも…と思ってネットでも調べてみると、サオトメハゼなる和名が2011年に付けられていた。

 なんだ、出会った頃にはもう和名があったのか…。

 …と、一時は当コーナーにてサオトメハゼとして紹介してしまったものの、その後刊行された「新版・日本のハゼ」でキイトハゼなる名前で掲載されているもののほうにより似ていることに気がついた(写真自体は旧版から掲載されていたんだけど気づかなかった…)。

 ともかくそんなわけで、撮った当時はまさかあとにも先にもこの時かぎりの出会いとなる(2022年現在)ハゼだなどとは思いもよらず、テキトーに撮ったヒレを閉じた状態のショボい写真がたった2枚残されただけなのだった。

 ちなみに図鑑的には、このハゼは内湾の砂泥底を好むらしい。

 その後まったく出会っていないことに鑑みると、水納島の砂底の砂泥底化は、ヒメクロイトハゼを許容するくらいにはなっていても、まだこのキイトハゼを受け入れるまでには至っていない、ということだろうか。

 再会したくはあるけれど、そのあたりの事情を考えると、会えない魚のままでいてくれるほうがいいのかもしれない…。