全長 25cm
その名のとおり黒く見えはするけれど、よく見るとその体は微妙な色合いで、胸ビレや口元は黄色いし、尾ビレにはほんのり紅をさしているクロモンガラ。
写真じゃなきゃ絶対に気づけないところでは、目の周りに大槻ケンヂのような模様まである。
クロモンガラ、ただ黒い魚ではないのだ。
彼らは、水納島の砂地のポイントではリーフ上の水面付近から水深20mくらいまでの根まで、広い範囲で観られ、普段はいつもプカプカフワフワと中層を泳いでいる。
周囲を見渡すとその周辺には他のクロモンガラもいて、やはり同じようにプカプカフワフワ。
全体的に丸っこい魚がそのように中層に浮かんでいると、まるで黒い飛行船のようだ。
図鑑的記述を見るかぎりではクロモンガラは雑食性で、もっぱら藻類やカイメンなどの付着生物や底生小動物などを食べている…とされている。
でもプカプカフワフワ泳いでいる彼らを観ていると、プランクトン食としか思えない行動をしている。
ときにはほぼほぼ水面付近で、日差しを浴びて泳いでいることすらある。
海底付近で観られる他の多くのモンガラ類とは明らかに普段の行動が異なっているから(かといってアカモンガラのようでもないけど)、きっと食べているものも違うのだろう。
普段は中層を泳いでいるクロモンガラも、産卵床はもちろん海底だ。
なにげない場所にサークル状に礫を除けて産卵床とし、パッと見では砂にしか見えないような塩梅で卵を産み付けてある。
卵は砂にまぶすように産み付けられているから、近寄って見てもハッキリ卵だとはわかりづらい。
初夏から夏にかけての繁殖期には、リーフ際の転石帯あたりのそこかしこで…というか、ボートの下すぐのところで、クロモンガラが卵をケアしている様子を目にする機会が何度もある。
卵を世話しているクロモンママは、卵に新鮮な海水を送るために、逆さになって水流を吹きかけている。
でも他の血気盛んなモンガラ類に比べるとわりと臆病なので、ダイバーが近づくと卵からいったん離れてしまう。
それでもやはり卵は気がかりらしく、ダイバーがその場を離れれば、すぐさま卵のそばに舞い戻ってくる。
なのでなかなか卵を世話しているところを間近から写真に収めるのはムツカシイのだけれど、カメラだけ置いておけばいいムービーなら、クロモンママの卵ケアの様子を撮ることができる。
コンデジを警戒しつつも、卵のケアに余念がないクロモンガラのメス。
見慣れなければ産卵床や卵にはなかなか気づけないけれど、クロモンガラが海底でこのような動きをしていれば、かっこうの目印になる。
その場合、無闇に近づきすぎるとクロモンママは卵から離れてしまうから、やや遠目にそっと見守ってあげてください。
メスが単独で卵をケアしていることもあれば、ときにはメスのそばにオスがいることもある。
普段のビビリとは性格を異にする繁殖期のオスは、近寄るダイバーに対しても随分攻撃的だ。
奥で卵をケアしているメス(と卵)を守るべく、果敢に何度も攻撃をしかけてくるオス。
ただ、歯を剥き出して迫る他のモンガラ類と違って、クロモンガラは口元がお上品で、攻撃してくるときもグッと口を閉じているものだから……
…やたらと可愛く見えたりする。
そんなオスの奮闘ぶりは↓こちら。
このような両親の奮闘の甲斐あって、小さなツブツブ卵のなかから、ほんの一握りにも満たないながらも次世代たちが育っていく。
クロモンガラではオトナとチビに色彩的な差異はさほどないようながら、それでも10cmにも満たないチビは、目の割合が大きいから、やっぱり可愛く見える。
こうして見比べてみると、第1背ビレを含めた背中のあたりが黄色っぽい。
そのへんをもっとじっくり見せてもらおうとしても、オトナに輪をかけてビビリなチビターレは、スタコラサッサと逃げては、岩の隙間に避難してしまうのだった。
※追記(2021年10月)
10cm弱のチビで上のような色味だから、クロモンガラのチビターレはオトナと大して変わらぬ体色なのだろう…
…と思い込んでいたので、今年(2021年)9月に出会った↓この6〜7pほどのチビモンガラの正体は、当初さっぱりわからなかった。
クロモンガラの雰囲気は醸し出しているものの、尾ビレがなんだか(カワハギの仲間の)ハクセイハギのような色合いだ。
こんなモンガラいたっけ?
後刻PCモニターで別のカットを見たところ…
あ、この目の周りの大槻ケンヂ模様は…
クロモンガラだ!
でもそれにしては、背ビレの模様があまりにも違ってないか?
調べてみると、クロモンガラの幼魚〜若魚では「各ヒレはオレンジ色になる」のだそうな。
なるほど、それならこれはクロモンガラの幼魚ないし若魚で間違いない。
5cm超サイズ時代のクロモンガラは、こんな色をしていたのか…。
というわけで、クロモンガラ人生最小記録更新。
せっかくだからもう1枚ヘナチョコ写真を…。