水納島の魚たち

クチナガイシヨウジ

全長 15cm

 もともと生き物に興味をお持ちの方がダイビングに慣れてくると、それまで目に入っていなかったいろいろな魚たちの存在にも気づくようになる。

 それまで目に入っていなかったくらいだから、いわゆる「魚」の形をしてはいない。

 そのためそれらの魚たちに気づかれた方は、たいていの場合

 「なんじゃこりゃ?」

 的なオドロキを伴う。

 出会える頻度の高さとその形状に鑑みれば、クチナガイシヨウジはそんな「なんじゃこりゃ?」のトップ10にランクインしているのは間違いない。

 このクネクネした細長いものが実は魚であると知った時のオドロキ、ああ、その新鮮なショックをもう一度味わいたい……。

 数あるヨウジウオのなかでも水納島で最も数多く目にすることができるのが、このクチナガイシヨウジだ。

 砂地の根の上や、根近くの砂底、または各種サンゴの上でフツーに観ることができる。

 似た仲間のイシヨウジと比べても他のヨウジウオ類と比べても、その名のとおり口がビヨヨンと細長く伸びているから見分けるのは簡単だ。

 よく観ると白っぽい模様にけっこうカラフルな模様が細かくついているものの、砂の上や白っぽい藻が生えた岩肌の上にいると隠蔽効果抜群になる。

 ただし餌を探すため、サンゴなどの上に載っているときはやたらと目立つ。

 特にイソバナ類についているときは……

 けっこうフォトジェニック。

 でも彼らがこのようにイソバナに載っているときというのはエサとなる小動物をサーチしているわけで、そのマナザシはいたって真剣だ。

 そのポーズも、普段ののんびりした様子とはひと味違い、いかにも一撃必殺のハンターといったスルドイものになる。

 イソバナなど各種サンゴ類の枝上には小型甲殻類をはじめとする小動物がたくさんいるらしく、それらを見つけては素早く捕食するクチナガイシヨウジ。

 なのでミドリイシの上に載っているときも……

 ハナガササンゴに載っているときも……

 ナマコの上でも……

 その目はいたって真剣なのである。

 真剣ではあるのだけれど、真剣過ぎて相当目をキョロキョロさせるから、ときとして随分変な顔になる。

 ついつい顔にばかり目tが行ってしまうけれど、尾ビレもなんだか小さな桜貝のようで、やけにカワイイ。

 そんな見どころたくさんのクチナガイシヨウジは、砂地のポイントに潜りさえすればいつでも観られるものとばかり思っていた。

 ところが一時期、水納島のクチナガイシヨウジが激減してしまったことがある。

 かつて98年に世界的なサンゴの白化が起こり、水納島のサンゴ礁も壊滅の憂き目に遭った際、食住のいずれか、もしくはどちらもサンゴに依存している小魚たちは一気にその姿を消した。

 そしてこのクチナガイシヨウジも同じようなタイミングで、突如姿を見かけなくなってしまったのだ。

 クチナガイシヨウジはさほどサンゴに依存しているわけではないのになぜ……と当時は思ったものだったけれど、効率の良いエサの確保のためにサンゴ類は欠かせないということなのだろうか。

 原因は定かならないものの激減してしまったクチナガイシヨウジは、その後何年か経って、再びいつでも出会えるフツーの魚として復活してくれている。

 ただし、いつでも出会えるとはいっても、場所を選ばなければ、会おうと思って探すと会えない不思議な魚でもある。

 採餌の際にはハンターになるクチナガイシヨウジにだって、恋の時間帯もある。

 真昼間よりは朝や午後遅めのほうが見かける頻度が高いような気がする、クチナガイシヨウジのデート。

 仲睦まじく行動をともにしているペアは、ときには↓このように意味もなく(?)体を重ねて「X」になっていることもある。

 恋が実ると、やがてオスはタツノオトシゴ同様卵をお腹に抱える。

 卵を抱えているオスは、上から観ても一目でそれとわかるくらい腹部が膨れている。

 

 タツノオトシゴ類と違って育児嚢が未発達なため、卵の大部分が表面に出ているから、少し腰を浮かせているところを覗き見ると、裏側に卵が並んでいるのが確認できる。

 さらにわかりやすいように観てみると……

 ビッシリ。

 こんなにたくさんの卵を抱えながら、ごくごくフツーに暮らしておるのですね、お父さんは。 

 その年生まれなのか前年生まれなのか、GWくらいから、チビたちの姿が目につくようになる。

 5cmほどのチビターレは、まさにつま楊枝サイズ。

 「ヨウジウオ」という名が、水中写真家の巨匠・大方洋二さんへの献名だと勘違いしている方も世の中にはいらっしゃるようながら、このチビターレを目にすれば、誰もが即座にその名の由来を悟ることだろう。