全長 35cm
一般にヒメジの仲間といえば、2本のヒゲを使って海底に潜むエサを探すと思われている。
このマルクチヒメジもそうやってエサを探していることもあるけれど、他のヒメジたちと異なり、けっこう獰猛にリーフ際の小魚たちに襲い掛かることもある。
成功率はけっして高そうには見えないものの、マルクチヒメジの場合エサを摂る手段として確立されたものであるようだ。
だからだろう、白化でリーフのサンゴが壊滅した98年以降、リーフ際の小魚の減少に合わせるかのように、一時期マルクチヒメジの個体数もかなり減った。
それから十数年経ってようやくリーフのサンゴがそれなりに復活し始めると、サンゴに依存する小魚たちもリーフ際にたくさん戻ってきた。
するとそれを待っていたかのように……って、ホントに待ってたんだろうけど、このマルクチヒメジもまた増え始めた。
それを考えると、やはりコツコツと砂底のエサを探し求めるよりも、目に見える小魚をエイヤッとばかりに手っ取り早く食べるほうが、彼らの趣向に合うのだろう。
このマルクチヒメジのオトナの体色は大きく分けて2とおりあり、上の写真のように基本グレーっぽい薄い紫のタイプ(グレンジャー)と、下のような真っ黄色のタイプ(キレンジャー)がある。
ただし子供の頃は、真っ黄色のものとやたらと黒いものに二分される。
キレンジャーヤング
グレンジャーヤング
魚の世界ではどういうわけか「黄色」がスペシャルカラーらしく、ノーマルな体色の他に黄化個体バージョンを持つ種類がけっこう多い。
このマルクチヒメジも同様で、グレンジャーがノーマルタイプと思われる。
他のヒメジ類には観られないのに、なぜにマルクチヒメジにだけ黄化個体が存在するのかは知らない。
そのキレンジャー、場所によっては黄色い群れが観られるくらいたくさんいるようなのに、水納島のキレンジャーは個体数が少なく、多くてもせいぜい2匹が一緒にいるくらい。
群れたくとも個体数が少なくて群れられないからか、時には黄色繋がりというだけでまったく別の魚と一緒に泳いでいることもある(目的は同じらしい)。
その一心同体っぷりは画像ではなかなかわからないから、是非動画でどうぞ。
動画の最後のほうで、ギチベラが捕食演習的に口の運動をするのでご注目(アクビではなく)。
目的が同じなら色どころか魚であるかどうかも関係ないのか、同じように石の下などに隠れた甲殻類を餌とするワモンダコが餌探しをしているところに、ずっと寄り添っておこぼれに与かろうとしていることもある。
このようにオジサン同様単独で餌を探すことがある一方、オジサンとは違ってオトナになっても群れで行動することが多いマルクチヒメジは、小魚が群れ集っているリーフエッジや死サンゴ転石ゾーンに群れで襲来しては、その場所の公序良俗安寧秩序を乱しまくることもある。
そのわりを食うものもいて、サビウツボもその1人。
サビウツボが死サンゴ石の陰におとなしく身を納めているところにたまたま通りかかったマルクチヒメジたちが、執拗にサビウツボを責め立てる。
サビウツボも頑張って必死に抵抗しようとするのだけれど……
どれだけ口を大きく開けて文字どおり歯向かおうとしても、マルクチヒメジはまったく意に介さず。
たまりかねたサビウツボは、カメラを構えるワタシに助けを求めるほどだった(※個人の印象です)。
だからといってワタシにはどうしようもないからそのまま観ていると、サビウツボはたまらず外に逃げ出した。
なおも執拗に追いかけるマルクチヒメジ。
まさかウツボを食べるわけでもないだろうに、このしつこさはいったいなんなのだろう?
そうかと思えば、時には砂地にポツンと生えているサンゴに群れ集う小魚を襲うことも。
これまた目的が同じカスミアジと行動を共にしていることが多く、アジの襲撃によってかき乱され、右往左往する小魚をどさくさ紛れにゲットしている。
この場合、カスミアジがどちらかというと一撃離脱を繰り返すのに対し、マルクチヒメジはけっこう執拗にサンゴの枝間を攻め続ける。
せっかく枝間に逃げ込んでもホッと息をつく暇すら与えてくれないマルクチヒメジは、小魚たちにとっては迷惑な存在に違いない。
サンゴに集う小魚のほうを主役として捉えるゲストにとっても、マルクチヒメジは落ち着いた雰囲気をかき乱すとんでもなく迷惑な存在かもしれない。
けれど、サンゴの白化にともなう環境の変遷に鑑みれば、マルクチヒメジが群れている=小魚がたくさんいる、ということの証でもあるわけだから、それはそれで彼らを暖かく見守ってあげよう。
※追記(2020年7月)
上に挙げた例は、あくまでもヒゲを使ってエサを探し求めている様子ばかりだけど、マルクチヒメジはときに中層に舞い出て、群れ集うスカシテンジクダイに襲い掛かることもある。
のんびり中層で群れ集っているところにマルクチヒメジが襲い掛かってくるものだから、スカテンたちはたちまち密集して逃げの姿勢に入る。
そのためマルクチヒメジの「悪者感」が際立つシーンになるのだった。