全長 30cm
どれだけたくさん潜っていても、どれだけ多くの魚を知っていても、居てもおかしくないのになかなか会えない魚がいる。
このメガネウオはその最たるものと言っても過言ではない。
ご存知ない方は、こんなブチャイクな魚にどうして会いたいの?と思われるかもしれない。
もっときれいなお魚さんたちの方がいいわ、とおっしゃるかもしれない。
けれどこのメガネウオ、会いたくてもそうそう会えるものじゃない、ということがわかればわかるほど、
ああ、せめてひと目だけでも……
と、遠い目をして恋焦がれるようになってしまうのである。
どうしてそうそう見られないのか。
ほかでもない、この魚は体全体が砂の中に埋まっていて、目と口をわずかに外に出しているのみなのだ。
上の写真は、発見したあとに顔のあたりの砂を払っているのであって、普段からこのような悪役商会に入れそうな悪人ジラーをさらしているわけではない。
それほどまでに見つけることが難しいメガネウオ。
そんな彼と出会いやすくなるための、とっておきの方法をご存知だろうか。
ビギナーダイバーと一緒に潜るのだ。
ダイビングに慣れてくるにつれ、海中での動きに無駄が無くなり、浮力の調節もスムーズになってくる。
すると、無闇に砂底を蹴ってしまうこともなくなる。
ところがまだダイビングに不慣れな方の場合は、一つの動作をするためにありとあらゆる余計な動きを伴うので、砂地の根の周りに到着するだけでも、そこかしこの砂が舞い上がるほどに海底をビシバシ蹴飛ばしてしまう。
そんなとき、あたふたしているビギナーダイバー(ご本人はアタフタしているとは思っていない場合も多い)の足下から、突然大きな魚がほうほうのていで逃げ出すことがある。
メガネウオだ。
ダイバーに体重をかけられたか、蹴られたかしたのだろう。
本来はテコでもその場を動かない頑固一徹の彼も、さすがにたまらず、スタコラサッサと逃げ出すほかなかったようだ。
逃げるといってもよほどのことがない限り遠くまでは行かず、手近なところでまた体をブルブルさせて砂に潜る。
その場所さえ見逃さなければ、そのあとゆっくり観察することができる。
もっとも、メガネウオ発見に一役買ってくれたビギナーダイバーの方は、メガネウオに出会えたからといっても特に感慨があるはずはなく、この千載一遇のチャンスにも今ひとつピンとこないということが多い。
蹴られて飛び出てジャジャジャジャーン、ではない出会いも、過去に2度ほどある。
それも、誰も何も触れていないにもかかわらず、砂に埋もれているメガネウオとたまたま目が合ってしまったのだ。
砂中に潜んではいても、目と鰓穴と口のあたりは外界と接しているメガネウオとはいえ(下顎の内側に装備している疑似餌をピロピロ動かして小魚を誘うらしい)、オニダルマオコゼのように体の輪郭が出ていないから、それに気づくというのは神懸かり的キセキといっていい。
そんな神懸かった出会いはそうそうあるものではないから、観たいと思ったからといってそうそう出会えるわけではない魚、メガネウオ。
そういえば、デジイチを使うようになってから十数年経っているけど(2019年現在)、その間出会えたのはゲストをご案内中の1度のみ。
カメラを携えているときにはただの1度も出会ったことがない。
かくいうワタシも、遠い目をして恋焦がれている1人なのだった。