全長 8cm
ここで「ネズッポの仲間」として紹介している魚たちの多くは「〇〇テグリ」という名前。
けれど、実はネズッポ科に属する魚たちの中には、ヨメゴチやネズミゴチのようにコチの仲間ではないのに「〇〇コチ」という名のものもわりといるほか、「〇〇ヌメリ」という名がついているものが圧倒的に多い。
いったい何のこと?と聞きたくなるくらいアヤシイ響きに満ちている「ヌメリ」、その意味は不明ながら、このミナミコブヌメリもその一員だ。
どこで見分ければいいのかまったくシロウトには不明なコブヌメリという種類もいて、昔の図鑑には、
琉球列島には沖縄島まではコブヌメリで、八重山に行くとミナミコブヌメリ
と説明されているものもあった。
となると水納島もコブヌメリ側になるんだけど、最近では「沖縄以南はほとんどミナミコブヌメリ(以北はコブヌメリ)」ということで落ち着いているようでもある。
ここで紹介しているものがミナミコブヌメリなのかコブヌメリなのか、まったく判別不能のままミナミコブヌメリとしているのは、最近の説に従っているように見えて、実は単にコブヌメリよりもミナミコブヌメリのほうが語呂がいいから…という理由だけだったりする。
というわけで非公式統一見解としてミナミコブヌメリに落ち着いたこの魚は、一見何もなさそうな砂地のそこかしこで出会うことができる。
とはいえカモフラージュ効果抜群の体色だから、砂底にはきっと何かいる…と信じて目を凝らしていなければならない。
すると、なにもいないように見えていた砂底に、キーコキーコ動きをしている姿が見えてくるはず。
ただし危険を察知すると、ホバリング移動している陸戦型ドムのようにスーーーーー…と地を這って逃げてしまったり、シュッと一息で砂中に隠れてしまう。
砂中に隠れるといっても表面なので、そこから目だけ出して様子をうかがっている姿はカワイイ。
1匹いるとたいてい周囲に大小様々いて、おそらくはオスであろう大きな個体は、尾ビレがなんとも誇らしげだ。
この尾ビレは線になっているのではなく、閉じている状態のようだ。
それにしても「尾」が長い(赤矢印の先が端)。
たまに見かけるこの尾ビレロングタイプがオスなのだとずっと信じてきたのだけれど、フォルムを観ても、ホントに同種なのか疑わしくなってくる。
別の魚なのだったらそっと教えてください…。
ロング尾ビレタイプはともかく、ミナミコブヌメリはビーチの浅いところでもたくさん見られるくらいだから、出会うのにそう苦労はしない。
ただ、白い砂地に白い体でいるものだから、ちょっとポートレート的にテキトーに撮った写真はたいがいオーバーになってしまって、なかなかキチンと撮れないでいる。
ジッとしているだけのことが多いミナミコブヌメリが、バトルを繰り広げているところに出くわしたのは、よりにもよってフィッシュアイレンズ装備の時のことだった。
以下、本来は画面の中に米粒のように写っているミナミコブヌメリを拡大したもの。
戦いは、睨み合いから始まった。
興奮しているからだろうか、相手に文句を言いたげな顔は、普段の取り澄ましたおちょぼ口から一変している。
そして己の体を誇示するために、ヒレを広げる。
攻守交替。
体側誇示が済むと、今度は睨み合い。
そして……
アタック!
そして戦いはまだまだ続く……
撮り始めてから最後の写真まで、画像ファイルに遺された撮影時刻を観ると5分もある。
撮り始めた時点ですでに戦端は開いていたから、実際はもっと長かったはず。
普段はなるべく目立たないよう砂と同化しているミナミコブヌメリが、砂底を舞台に1対1の決闘を繰り広げるなんて。
やはりこれは、繁殖に絡んだオス同士の争いなんだろうか。
となると、ますます「オス」と信じてきたロング尾ビレとフォルムが全然違っているんだけど……はたして。