全長 10cm
岩場のポイントの、安全停止をするような水深から水深10m前後の浅いところのそこかしこに、チョロチョロと逃げ隠れする黒い魚がいる。
その正体は、たいていこのミノカエルウオか、アミメミノカエルウオだ。
チョコンと何かに乗っかっている姿はわりと目立つし、黒っぽい体のわりにはけっこう可愛げがある。
遠目にもその姿が愛らしそうに見えるから、どれどれ、ひとつお近づきに……
…と思ったら、つれなくすぐさまヒョイと逃げてしまい、陰から顔をヒョコッと出してこちらの様子をうかがう。
ヒトスジギンポやイシガキカエルウオに比べれば遥かに大きいくせに、かなりシャイな性格なのだ。
そのため、よく目にするわりには、気軽に全身をじっくり間近で拝ませてもらえる機会は少ない。
そんなミノカエルウオなのに、場合によってはダイバーの存在など、まったくといっていいほど意に介さないときがある。
恋の季節だ。
かつて勝手に「気合色」と名付けていた色を発しているオスは、いつものシャイぶりはどこへやら、付近にいるのであろうメスに対してアピールしているのか、なにやら鼻息も荒い。
その姿は、まるっきり別の魚に見える。
かくいうワタシも初めて観たときは、新種のギンポかと思ってしまったほどだ。
初めてこの色になっているミノカエルウオを目にした2012年当時、この状態の姿が掲載されている図鑑は世に一冊しかなく、それによると、ミノカエルウオの色彩変異としつつ、おそらく婚姻色ではないか、と記されていた。
その後何度か目にする機会を得たのは、すべて4月から5月のこと。
このテのギンポたちの繁殖時期だから、やはりこれは婚姻色で間違いないだろう。
その証拠に、この気合色のままサンゴから離れて垂直上昇する。
どこか近くにいるメスに対するアピールなのだろう、普段の警戒心マックスな様子からは想像もできない素早い動きを中層で見せることもあり、グズグズしているとブレブレ画像になってしまうほど。
普段の黒い時だったら、すぐさま陰に逃げ去るくせに、そばにいるダイバーなどおかまいなしだ。
まさに恋は盲目。
ハイテンションだからなのか、表情はどこか得意気ですらある。
カラフルさといい撮リ安さといい、どうせなら一年中こうだったらいいのに…と思ってしまうけど、年に一度の限られた期間だからこそ、祭りも盛り上がるというもの。
それに、もし一年通してこうだったら、目立ちすぎるミノカエルウオは、今頃すっかり絶滅していることだろう。