全長 5cm
フタスジリュウキュウスズメダイが深いところも好むのに対し、このミスジは深いところは苦手なようで、そのかわり浅いところにたくさんいる。
リーフの中にも数多く、点在するサンゴごとに群れているから、ルリスズメダイとともに水納ビーチのトロピカルムードに欠かせない存在になっている。
そんな浅いところにいればいつも輝く光を浴びているからだろうか、フタスジのように体の色をどす黒く変えることはなく、白と黒のクッキリツートンカラーはまるでオモチャのようですらある。
このオモチャのような魚たちが枝サンゴの周りで群れ、サンゴの合間から出たり入ったりする様子を眺めているだけで、シアワセの時間がゆっくりと流れていく。
もっとも、観ている側にとってはシアワセの時間ながら、そこで群れている本人たちは、実はなかなか猛々しい。
ミスジリュウキュウスズメダイの群れは1匹のオスが複数のメスを従えているハレム状態で、群れの規模が小さければハレムはひとつ、大きな群れになると複数のハレムが同居している状態になっている。
だからオスは、日々メスを管理し、他のオスを撃退し、繁殖期には他の魚たちまで追い払うという八面六臂の活躍。
優雅に群れ泳いでいるように見えて、実はユンケルやリゲインを飲まずにはいられない日々を送っているのだ。
そんなオスの頑張りの果てに誕生してくるチビチビは、毎年初夏になるとサンゴの枝間に姿を現す。
ビーチの中などの小さなサンゴにも、小さなミスジリュウキュウスズメダイが集まる。
水納島でのボートダイビングだと、残念ながらリーフ内の彼らの様子を観ることはできない。
だからといって深いところにたくさんいるわけでもなく、リーフの外で彼らが観られるのは、せいぜい水深15m以浅のリーフ際まで。
そこから先は、同じ仲間のフタスジリュウキュウスズメダイの領域になる(フタスジリュウキュウスズメダイは、インリーフでもリーフの上でも観られます)。
ところが2014年秋のこと。
ストロングな台風が去ったあと、それまでただの砂底だったところに、ポツンとひとつサンゴが出現した。
盆栽サイズのミドリイシで、ボロボロになりつつもかろうじて一命を取り留めていた。
どうやらリーフエッジかリーフ際にあったサンゴがストロング台風の超大なうねりよって岩肌から剥がされ、ここまで転がって来たものらしい。
台風後に突然出現したときからすでにフタスジリュウキュウスズメダイたちが少々群れていたのだけど、翌年やや成長したこのサンゴには、彼の姿も。
このテのサンゴにフタスジとミスジが混在するのは、リーフ際あたりでは当たり前の風景である。
ところがここは、水深20m超。
水納島では、ミスジリュウキュウスズメダイがまず観られない水深だ。
ミスジリュウキュウスズメダイ、最深不倒記録樹立。
これって、転がるサンゴの枝間に隠れながら、サンゴと一緒にリーフ際からここまでやってきてしまったのだろうか。
はからずもこんなところにいる…からなのか、ややイジケ気味にサンゴの下に身を隠していた。
ところが不思議なことに、その後この波に転がるサンゴが徐々に回復しつつ成長を続けて夏を迎えた一時期、こういうことになっていた。
ミスジリュウキュウスズメダイのチビターレだらけ!
それまでこの水深でミスジを見ることなどまったくなかったというのに、いったいぜんたいこのフィーバーはどういうわけだろう?
もともと1,2匹いたミスジが、友を呼ぶ誘引物質を出しているのだろうか。
理由不明で困ったときには、ザ・誘引物質。
その後ミスジリュウキュウスズメダイはこのサンゴで増減を繰り返しつつも、随分育った「波に転がるサンゴ」で住民の地位をしっかり築き上げている。
ただしこの波に転がるサンゴは、その後スクスク成長して立派に大きく育ったはいいのだけれど、忍び寄る「砂モンダイ」のためにあるとき半分かた砂に埋まってしまい、3分の1が死んでしまっている。
この先もミスジリュウキュウスズメダイを水深20m超でキープし続けてくれるかどうか……。
…と心配しつつも、初登場から6年経った頃には↓こうなっていた。
なんというサンゴの成長スピード!
上の動画からさらに2年経った2022年になっても、サンゴはさらに成長しつつ、ミスジリュウキュウスズメダイたちも健在だ。
波に転がるサンゴの運命が気になるところながら、でもやっぱりミスジリュウキュウスズメダイを眺めるなら、なんといってもビーチの中が一番!
その体に熱帯特有の三原色はいっさい入っていないにもかかわらず、トロピカル光線をいかんなく発揮してくれる。
なお、ミスジリュウキュウスズメダイにそっくりなヨスジリュウキュウスズメダイという魚もこの世の中に存在するのだけれど、残念ながらまだ水納島では目にしたことがない。
フィリピンにはたくさんいたんだけどなぁ……。
きっと寒いのは苦手なのだろう。
※追記(2022年12月)
…と、ヨスジリュウキュウスズメダイサーチばかりにウツツを抜かし、肝心のミスジリュウキュウスズメダイについて重大な見落としをしていたことに気がついた。
諸事情あって今年(2022年)の秋以降もリーフ内で潜る機会が多く、リーフ内といえばミスジリュウキュウスズメダイ。
で、シゲシゲとミスジ…たちを観ていて、今さらながら気がついたことが。
ミスジリュウキュウスズメダイは、激チビだと↓こんな感じで…
チビターレではこう。
そしてオトナだとこのよう。
ところが激チビでもチビターレでもオトナでもない若いミスジリュウキュウスズメダイはというと…
尻ビレと腹ビレ、特に腹ビレ前縁の蛍光ブルーがやけに目立っているのだ。
ヒレにブルーのラインが入っているってことは以前から知ってはいたけれど、成長段階でここまで異なっているだなんて。
海中で観るほうがよりクッキリ目立つこの若ミスジの蛍光ブルーの存在感は、白と黒の魚というミスジリュウキュウスズメダイのイメージを根底から覆す…
…ってほどではないにしろ、なんで今までこの特徴に気がつかなかったんだろう?
「群れ」で眺めていたほうが気持ちがいいからかなぁ…。
オトナはなにげにコワイ顔しているから、わざわざ個々を観ようとしないし。
そのため今さらながらの(個人的に)知られざるミスジブルー、今ごろこんなことに気がついているようじゃ、実はこれまでにもヨスジリュウキュウスズメダイがいたとしても、スルーしている可能性が高いかもしれない…。