全長 12cm(写真は2cmほどの幼魚)
その名のとおり、白い点が(反対側の一つを含めて)3つある黒いスズメダイ。
3つの点が丸っこい体にほどよいアクセントをつけているから、黒いボディにもかかわらずやけに愛くるしい。
そんな可愛いチビチビミツボシは、サンゴのほか、イソギンチャク、ウミシダなどにたくさん集まる。
また、そういった動物系隠れ家が周囲に無い場合には、枝ぶりがよく隠れ家になってくれる海藻にも集まる。
この時はよほどの住宅難だったのか、とんでもない密度のミツボシチビターレが海藻に大集合していた。
サンゴの場合、フタスジリュウキュウスズメダイと一緒に群れていることも多い。
彼らは住居の質は問わないのか、水中ブイに着生して育ったヘラジカハナヤサイサンゴで群れていることもある。
波が大きなときにはブイはかなり動いているから、波酔いしそうにさえ見えるのだけど、あまり意に介さないようだ。
一方、クマノミ類が暮らすイソギンチャクに群れている子たちの場合、イソギンチャクの刺胞毒は平気なんだろうか。
……大丈夫らしい。
大丈夫どころか、イソギンチャクのそばで群れているミツボシ君たちは、夜になると……
…イソギンチャクをベッドにして寝ているほどだ。
ミツボシクロスズメダイが「ミツボシ」なのはこれくらいのサイズまで。
これがオトナになろうものなら……。
成長するにつれて白い点は薄くなり、体の色もひときわドスが効いた黒色になる。
10cmを超える成熟ボディともなれば、幼魚の面影は微塵も無くなっている。
ホンソメワケベラにクリーニングしてもらっている姿は、ほとんどプレデターの貫録……。
黒くなるといってもいつも黒のままというわけではなく、おそらく興奮色なんだろうけど白っぽくなっていることもある。
そんなオトナたちは隠れ家に依存することがなくなり、堂々と群れてプランクトンを食べている。
白い点が目立っていた頃と比べれば、まるで別の魚だ。
見かけの変化だけならまだしも、オトナはスズメダイ類で1〜2を争う気の強さを誇るようになる。
繁殖期にはたいていの魚が猛々しくなるものではあるけれど、彼らの場合はちょっと尋常ではない。
自分の何百倍もあろうかというダイバーに対し、攻撃の手を止めることはいっさいないのだ。
多くのダイバーにとって、これが彼らミツボシ君たちのイメージを決定的にしているといっても過言ではない。
なにしろ髪の毛から手の先から何から、突つきまくるのである。
たかが10cmほどの魚と侮るなかれ、この攻撃はけっこうイタイ。
つつくだけではなく引っ張りもする。
抜け毛が気になりだした方は、貴重な「長い友だち」を続けざまに引っこ抜かれてしまうかもしれないから要注意だ。
そんな目に遭ったダイバーは一様に彼らミツボシたちを敵視する。
しかし彼らに襲われるのは、ほとんどの場合ダイバー側に原因がある。
それは、彼らがそこで卵を守っているから。
怒りの形相で迫ってくるこのオスのすぐ下の岩肌に、卵が産み付けられている。
なんの変哲もない岩肌を産卵床にするため、多くの生き物がその傍を通ることになる。
そんなあらゆるものを、持ち前の気の強さで撃退するミツボシクロスズメダイパパ。
あるとき卵色のイイジマウミヘビが、シメシメとばかりミツボシクロスズメダイの産卵床で卵を貪り始めた。
ヘビの先に透明な粒々があるんだけど、見えますかね?
このままではウミヘビに食べ尽くされてしまう!
ミツボシパパ、がんばる。
ヒレでしばき倒してもビクともしないウミヘビを、ガブッと咥えて強制排除!
イイジマウミヘビはさすがにミツボシクロスズメダイのオトナに襲い掛からないとはいえ、ウミヘビをも実力をもって排除するパパ、強し。
卵食のウミヘビや魚たちとは違い、卵を目当てにしているわけではないのに卵に異常接近する生き物がいる。
ダイバーだ。
クマノミ類の卵と違い、目立つような色ではないため、そうと知らずに無邪気に接近してしまうダイバーは多い。
岩肌をしきりにケアしているように見えるミツボシクロスズメダイがいれば、そこはまず間違いなく産卵床だ。
産みたては白っぽい卵も、発生が進むと黒っぽくなる。
クマノミ類の卵に比べると随分小さいからクラシカルアイにはキビシイものの、黒っぽくなると岩肌の表面自体が黒っぽく見えるから、わりとわかりやすい。
根の岩肌だけではなく、根の傍らの砂上の小石を産卵床にしているものもいて、ちょっとやそっと砂が動いても埋まってしまったりしないよう、ミツボシパパは産卵床の小石の周りをクレーター状にキチンと調えている。
黒っぽく見える小石の表面には、卵がビッシリ産み付けられてある。
こういうところにダイバーがやってきて、近づくだけならまだしも、産卵床をフィンで蹴っ飛ばしたり、せっかく形が整っている小石の周りの砂を乱したり、あろうことかその手を卵の上にベタッとつけてしまっていたりもする。
全精力を注いで日々卵をケアしているミツボシパパにとっては、たまったものではない。
ミツボシクロスズメダイのオスが、卵を守るべく果敢に立ち向かってくるのは当たり前なのである。
ミツボシクロスズメダイに攻撃されたら、けっして敵意を剥き出しにするのではなく、その場を静かに立ち去るくらいの冷静な対応を心がけよう。
じゃないと、首根っこを咥えられて遠くに運ばれるかも?