全長 25cm
はたしてこの不思議な色彩に、進化上の理由などあるのだろうか。
白い水玉模様のモンガラカワハギがプカプカ泳いでいる姿を見ると、なんだかメルヘンの世界に紛れ込んでしまったかのような錯覚さえ覚えてしまう。
目元にある黄色いラインが、まるで心地よく眠っているかのような「目」に見えるため、なんとものどかで穏やかな、静かな微笑みを浮かべているようにさえ見える。
でも実際の目は、その黄色いラインよりも背ビレに近い側にある(上の写真では、光を少し反射しているところ)。
目にするときはたいてい1匹でフンワカフンワカと泳いでいる。
ただし見た目のどかでのんびりなわりには、容易に近づけさせてくれない。
その点幼魚は、行動範囲が広くないから観察しやすい。
南方の魚が死滅回遊する伊豆あたりでは、わりと浅い水深でこの幼魚が観られるらしい。
しかし本来の分布域に入っている沖縄では、幼魚に出会う機会はさほど多くはなく、いたとしてもオトナとは違って、ドロップオフなど潮通しのいい環境の、けっこう深いところにいる。
ところがある年のこと、何を血迷ったのか砂地の、それも水深20mちょいのところに、写真の幼魚が一週間ほど居続けてくれた。
オトナと違い、水玉模様が体全域に渡っているのがチビターレの特徴だ。
また、口の周りの黄色の範囲が広い。
写真の幼魚で5cmほどだけど、もっと小さい頃は、まだ背中に黄色が入らず、水玉模様だけらしい。
そこまで小さい幼魚にはまだ会ったことがないものの、全身水玉でとびきり小さいとくれば、可愛いことこのうえない。
そんな幼魚を水深20mほどで観られたなんて、超レアな体験なのである。
このチビチビ段階から成長すると……
背中に水玉がほのかに残ってはいても、口元や背中の黄色い部分は、ほぼオトナのようになってくる(2年後に同じポイントで出会った子ながら、同一個体かどうかは不明)。
幼魚の可愛さとは対照的に、繁殖期になる夏場には、メスをめぐってか、縄張りをめぐってなのか、おそらくはオス同士で争いをしている様子が観られるようになる。
一方、卵を守っているメスはやたらと気が強く、卵のそばに近づくとダイバーにすらつっかかってくるほど。
逆にそういう時が、じっくり彼女たちを観るチャンスになる。
卵のケアをしているモンガラママ。
彼女の下にある、黄色っぽいスポンジのようなものが卵だ。
産卵床に卵を産み付けるタイプの魚の場合、その卵を守るのはオスであるケースが多い。
次の産卵に備え、メスは栄養を摂らなければならないから、卵のケアをしているヒマがないのだ。
ところがモンガラ類の卵は、産卵から孵化までがたった半日、朝産んでその日の夕刻には孵化するのだそうだ。
卵を守っていなければならない時間はほんの半日で済むから、モンガラ類ではもっぱらメスが卵を守るようになっているらしい。
卵を守っている最中のモンガラカワハギは、普段のホンワカメルヘンのような存在からは想像もできないくらいに猛々しくなる。
卵たちにはあくまでも優し気に、近寄ってくる不審者(ワタシのことです)には厳しく。
メスはこうして朝から夕刻まで卵の世話を続ける。
たった半日で孵化だなんて、にわかには信じられない素早さだけど、午前中には産みたてホヤホヤ状態だった↓この卵(白線内)が……
…翌日にはもう↓こうなっていた。
はやッ!!
けっこう近い仲間のゴマモンガラに比べると、モンガラカワハギが卵をケアしているところに出会う機会は随分少ない。
カメラを持っていないときに卵を守っているモンガラカワハギを見つけ、翌日その様子を撮りに再訪したとしても、もうそこには卵もなにも無い。
出会った時だけがチャンスなので、くれぐれもお撮り逃しなく。
※追記(2019年8月)
夏の初めのリーフ際でのこと、変なところでモンガラカワハギがくつろいでいた。
普段に比べ、なんだか体色が褪せている。
久しぶりの本格的な梅雨が長く続き、そして唐突な梅雨明けとなって、体調を崩しているんだろうか。
と思ったら……
ホンソメヤングのクリーニングケアを受けていたのだった。
観ていると……
ウヒョーーーーー♪
という声が聴こえてきそうな歓喜の顔に。
よっぽどホンソメケアで気持ちが良かったのだろう。
モンガラカワハギがホンソメワケベラなどのクリーナフィッシュにお掃除をしてもらっているのはちょくちょく見かけるけれど、このように体色を褪せさせているところは初めて目にした(気がする)。
変化させていた体色は、この場を去る際にはほぼ通常色に戻った。
こういうクリーニング時でもなければなかなか正面からじっくりご尊顔を拝む機会はないモンガラカワハギ、この機会に彼らの特徴的な口をじっくり観ることもできた。
口の周りの、ぬいぐるみのようなこの質感!!
その昔から数々の写真を拝見して彼らの口がこうなっていることは知ってはいたけれど、じっくり観られるよう撮れたのは初めてかも。