全長 7cm
モヨウシノビハゼというわりにはあまりメリハリのない模様をしているこのハゼ、水納島の白い砂底では、余計に目立たない。
ところが図鑑その他で底砂の色が濃い目の環境で撮られた写真を見てみると、それなりにちゃんと「模様」が入っていて、顔のあたりの青いラインなどは随分美しい。
水納島の白い砂底で撮った写真でも無理矢理メリハリをつけると、そのラインがクッキリ見えてくる。
白い砂底だと、こうでもしなければこの輝く水色のラインがなかなか見えない。
水納島の海は砂地環境は広いのになぜだか彼らが観られる場所は限定的で、珍しいわけではないけれど個体数はそれほど多くはなく、そのうえ目立たないとなれば、存在すら知られることのない「その他大勢」の一員になること必至。
ただ、新種として記載され学名がつけられたのは前世紀末頃と比較的新しく、それ以前はモヨウシノビハゼという和名しかなかった。
未記載種の場合、〇〇属の1種という意味で「属名+sp.」という表記になるものなのだけど、このモヨウシノビハゼは他のどの属にも含まれない種類らしいことは当時からわかっていたようで、Gobidae sp.と表記されていた。
「ハゼ科の1種」という、なんとも広範囲かつテキトーな表記だったのだ。
その後晴れて新種として記載され学名がついたのが98年のことで、当時は物珍しさもあって個人的要注目ハゼのポジションにいた。
水納島では居場所限定ではあってもよく潜るポイントがその限定箇所のひとつということもあって、水深20mくらいあたりをフラフラ徘徊していれば、特に探しているわけではなくてもちょくちょく出会えたものだった。
ただしモヨウシノビハゼはけっこう警戒心が強く、
「!」
とこちらが気づいた時点で時すでに遅く、視線を感じた彼は素早く巣穴に逃げ込んでしまう。
ところでこの巣穴、似たような名前のシノビハゼという共生ハゼ(テッポウエビ類と共生しているハゼ)とモヨウシノビハゼはまったく別のグループで、モヨウシノビハゼはテッポウエビ類と共生はしていない。
なので巣穴は共生ハゼの巣穴に似ていても…
この巣穴はテッポウエビ作ではないし、テッポウエビの姿はどこにもない。
ではこの巣穴はいったい誰が作っているの?
という素朴な疑問に唯一応えてくれていたのは、故・益田一御大著の「海洋生物ガイドブック」(東海大学出版会 刊)で、いわく
ユムシの巣穴付近で観察されている
とある。
え”ッ!?ユムシの巣穴なの、これ??
にわかには信じがたい話なので、それについて探ってみたものの、ハゼ類変態社会御用達図鑑「日本のハゼ」ですら
砂底の穴に単独で見られる
とあるのみ。
まるでたまたま開いている穴に住んでいます的な記述に留まっている。
モヨウシノビハゼの巣穴はいったい誰が作ったものなのか、ひょっとするとまだ誰も知らないのかもしれない。
とにかくテッポウエビと共生していないことだけはたしかで、そのためエビの活動のために巣穴入り口で見張りをしている必要はなく、巣穴から離れたところにたいてい単独でいるものだから、余計に目立たない。
単独でいるうえに色味は目立たないしエビと共生しているわけでもなく、新登場の新鮮味も薄れてくれば、地味地味ジミーの道まっしぐらってなところ。
そしてその道を進むのに合わせるかのように、20年前と比べ近年は出会う頻度が減っているような…。
それはワタシが注意を向けなくなったからなのか、それともホントに減っているのか、そのあたりはビミョーながら、大きく育った個体と出会う回数はやはり減っている気がする。
けっこうドデンとして見えるこれくらい(8cm)の大きさなら(オスか?)、第1背ビレを立てると先がシャープに伸びてカッコイイはずなのに、そこまでこだわって撮っていなかったらしく、ヒレを立てている大きめ個体の写真が無い…。
このような大きめの個体でも単独でいることのほうが多いモヨウシノビハゼなのに、ごくごくたまにこういうシーンもある。
わりと大きめの個体が2匹一緒に。
ペアなんだろうか。
少ないように見えてちゃんと2匹が出会えてるのだとしたら、それなりにポツポツいるってことなのかも。
であれば、第1背ビレが伸長している大きな子が、パシッとヒレを広げているところを撮るチャンスに恵まれることが、この先もまだまだあるかもしれない。
はたして、注目すれば遭遇頻度は増えるだろうか?
※追記(2024年5月)
昨年(2023年)あたりから、遭遇頻度が復活してきている感がある。
出会える場所は限られてはいるものの、以前と同じ偏り具合だから元に戻ったといってもよく、この増減は環境要因とは関係なく、もともとそういうサイクルがあるということなのだろうか?