水納島の魚たち

モヨウフグ

全長 80cm

 とんでもなくでっかいフグ、モヨウフグ。

 水中で観るその巨体はメーター級で、岩場のポイントでそれがボンと浮いている姿など、ほとんど泳ぐ不発弾といったところだ。

 しかしモヨウフグはでっかいわりに警戒心が強く、近寄ろうとするとすぐさま身を翻し、とっとと逃げていく。

 他のフグたち同様体内にフグ毒を内蔵していれば誰に襲われるはずもないだろうから、もっとデンッと構えていればいいのに…。

 …と思っていたら、明らかに何かに襲われたらしき傷痕があるモヨウフグに出会った。

 エラの下あたりや口の周りが痛々しいほどズル剥けで、顔全体に傷ついている。

 反対側は……

 顎の下と、同じくエラのあたりがズル剥け状態。

 何があったらこんなにボロボロになるのだろうか。

 というか、まるで頭の先からガブリと噛みつかれたかのような傷………。

 サイズにかかわらず生命にかかわる毒持ちだというのに、そのうえこんな巨大なフグに襲いかかる魚って………

 きっとモノの道理をわきまえないオロカモノが、「美味そう!!」って噛みついたはいいけど、「あ、フグだッ!!」って気づいて慌てて食べるのをやめたのだろう。

 食べかけたヤツは九死に一生を得た代わりに、このモヨウフグはほぼ九死状態。

 そこでモヨウフグは、弱った体を癒すべく、ホンソメクリニックに立ち寄る。

 さすがに参っているのか、普段だったらとっとと逃げ去るところ、カメラのポート前10cmまで近寄っても逃げなかった。

 ちなみに、写真ではホンソメワケベラがクリーニングをするために優しげに近づいているように見えるけど、どうも剥がれた皮膚などを食べているような気配もあった…。

 当時(2010年)は砂地のポイントででっかいモヨウフグに近づくなんて、このようにケガでもしていないかぎり不可能だった。

 ところが2019年以降、なぜだかドデンと砂底に休憩したまま、なかなか逃げようとしない大きなモヨウフグに出会う機会が増えている。

 砂底にドデン。

 前から観てもドデン。

 これほど逃げないモヨウフグなんて、昔じゃ考えられなかったのに。

 それでも近寄られ過ぎるとガマンの限界を迎えるようで、砂底からのっそり発進する。

 砂煙を巻き上げながらの発進は、なんだか地中に埋もれていた不沈戦艦が宇宙へ旅立つかのような趣が…。

 逃げないモヨウフグといえば、2017年に出会った若い若いモヨウフグ。

 サザナミフグの若者かな?と一瞬思うほどのサイズながら(20cmくらい)、その模様は紛れもなくモヨウフグだ。

 モヨウフグといえば巨大なモノとしか出会ったことがなかったワタシにとっては、人生初のささやかサイズ。

 さぞかしその顔は……

 あれ?

 可愛くないぞ。

 これは角度のモンダイだろうか。

 なのでアングルを変えて観てみるべく周りをうろつくと、嫌気がさしたのかゆるりと泳ぎ始めたモヨウフグヤング。

 するとほどなくして、ホンソメクリーニングステーションにたどり着いた。

 チャンス。

 モヨウフグの決め角度を探ってみよう!

 これは……

 …険しい顔。

 ならばやや上から……

 うーん…。

 やっぱフグといえば正面か?

 たしかに丸いことは丸いけど、なんか人相が……。

 眼が真ん丸じゃないからだろうか。

 あ。

 どうやらそれは、口元に原因があるようだ。

 この黒く染められたかのような口元が、どの角度から観てもギュッと歯を食いしばっているように見えてしまう(実際は半開きだけど)。

 まだまだ幼いサイズとはいっても、モヨウフグはモヨウフグ。

 キビシイ社会を乗り切るためには、たやすくヘラヘラと笑顔を振りまいている場合ではないのだろう。

 とはいえ同じようにホンソメクリーニングを受けている巨大なオトナに比べれば……

 …遥かに可愛いモヨウフグヤングなのだった。

 しかし。

 オトナに比べれば可愛いサイズのこの若いモヨウフグではあるけれど、これで「カワイイ」と言っていてはいけなかった。

 モヨウフグの幼魚ってどんな容姿なんだろう?と思い、チョイとネットで画像検索してみると……

 うーわ、めっちゃカワイイ。

 沖縄あたりでは、サザナミフグのチビ同様台風の後などにひょっこり浅いところに出現するらしい。

 ああ、ひと目逢いたいチビターレ。

 台風後、インリーフを潜り倒せば出会えるかもしれない??