全長 12cm(写真は4cmほどの幼魚)
ミツボシキュウセンの仲間たちのチビたちというと、たいてい海底付近をウロウロしている。
それもほとんどの場合、ただ死サンゴ岩や礫が転がるだけの、もしくは茫漠たる砂が広がるだけの、一見なんの変哲もない海底だ。
ところがこのムナテンベラダマシのチビターレは砂地の根で観られ、根の岩陰から表側に出たり入ったり、思わせぶりな動きを見せる。
いつも単独でいるその様子は、同じベラでもタキベラ属のチビたちのよう。
透明感のある体にストライプが目立つうえに、腹ビレをいつもツンと突っ張ったようにして泳ぐ姿がまたタダモノではないっぽい。
初めてこのチビに会った際はその「タダモノではない感」がなんだか激レア種のようだったから(※個人の感想です)、即座に新種認定してしまったほど。
けれどもちろん当時(95年)ですらフツーに図鑑に載っているベラで、しかもミツボシキュウセンの仲間だったとは…。
とはいえ、当時の図鑑では個体数の多寡について触れているものはなかったのだけれど、ムナテンベラダマシ、けっして数多くいる魚ではない。
毎年チビたちにはちょくちょく会うことができても、オトナとなるとそうそう出会う機会はなく、オトナもまた単独でいるうえに1本のダイビングで2匹観ることがないくらいなので、個体数は相当少ないと思われる。
もっとも、たとえ出会えたとしても、オトナの見た目にはチビほどのインパクトはない…。
これは15cmほどの立派なオトナで、チビの頃のストライプはすっかり消え失せている。
聞くところによるとムナテンベラダマシは、ミツボシキュウセンの仲間では珍しく雌雄の体色差がない種類だそうなのだけど、それって雌雄差がないんじゃなくて、個体数が少ないために、みんながみんな住んでいるところでオスになっているだけ…ということはないんだろうか?
雌雄はともかく、周辺に他個体がいないからかどうなのか、ムナテンベラダマシは10cmくらいの頃からオトナの体色になっているものが観られる。
このオトナがいた砂地の根には、見渡したところどこにも他のムナテンベラダマシの姿はない(チビはいたかもしれない)。
オトナに比べると出会う機会が断然多い5cmくらいの頃は、このようなオトナの配色が出始めつつも、まだストライプが残っている。
これよりも少し前段階が冒頭の写真で、それよりも小さな2cmくらいの子になると……
背ビレの後ろ側に眼状斑が、そして尾ビレ付け根付近にも小さな黒い点が見られる。
さらに小さな15mmに満たないくらいのチビターレでは…
尾ビレ付け根の黒点が随分ハッキリしている。
そのかわり、背ビレ先端の模様が無い。
また、ムナテンベラダマシのトレードマークとでもいうべき腹ビレツンツン泳ぎを見せてくれない(腹ビレの前縁が白くなってないからツンツンする意味が無いんだろうか…)。
腹ビレの前縁が白いからどうなのよと問われても困るのだけど、ムナテンベラダマシのチビターレは、泳いでいるときに他のベラ(コガシラベラのチビ)に遭遇すると、エラそうに全身のヒレを広げて立ちポーズ状態になり、プルプル体を震わせながらしばらくそのままの姿勢でコガシラベラを牽制していた。
だから何?と言われてしまえば身も蓋も無いかもしれないものの、前縁が白い胸ビレをアピールしているようにも見える(ひょっとしてクリーニングの催促だったか?)。
そうはいっても激チビターレの頃にこんなことをやっていたら、たちまち誰かにパクリとやられてしまうだろうから、激チビの間は目立つヒレなど無い方がいいのかもしれない。
こうして見てみると、やはりベラだけあってチビとオトナは全然違う魚に見えるムナテンベラダマシ。
出会う頻度的には最もレアといっていいオトナはいまいちインパクトが無いカラーリングだし、出会いは季節限定になる激チビターレは腹ビレツンツンポーズを見せてくれないからつまんない。
やはりムナテンベラダマシが最も存在感を発揮しているのは、4cm前後のチビ。
それくらいのチビなら真冬でも観られるし、各成長段階を通じ、出会う頻度もまた最も高い。
チビの可憐さに目が行くようになってしまったあなたの前に、ベラ変態社会の扉が開く……。
※さっそく追記(2021年1月)
このムナテンベラダマシの稿をアップした翌日に、真冬の水の冷たさにも負けず潜りに行ってきた。
アップした翌日ともなれば、さすがにムナテンベラダマシに目が行く。
相変わらずフツーに会えるチビはこの日もタキベラの仲間チックに根の周りを泳いでいたので、パシャ。
こうしてアクビを見せてもらえるのも、出会う頻度が高いからこそ。
オトナときたら、アクビどころか会うことすらできない……
…と思いきや。
このチビターレのすぐ近くの、リーフ際から地続き的になっている根にオトナの姿が。
おお、オトナに会うのは久しぶりかも。
居るところには居るんだなぁ、ムナテンベラダマシのオトナ。
ミツボシキュウセンの他の仲間にしろ、1匹のオスが縄張り内にメスを囲うベラ類の場合、メスを観ていればそのうちどこからともなくオスがやってきたり、オスについていったらメスのところに…という具合いに、必ず他個体に出会える。
でもやはりムナテンベラダマシのオトナは「単独」なのか、15分くらいこのオトナを観ていたけれど、他のオトナにはまったく出会わなかった。
やっぱり個体数は少ないんだなぁ、ムナテンベラダマシのオトナ。
ところが。
この場所から30mほど離れたまったく別の根でもまた……
あらら…またオトナ。
前日に「1本のダイビングで2匹に出会うことがないくらい」などと書いたものをアップしたばかりだというのに、いきなり翌日に1ダイブで2匹観てしまった。
それどころか。
この場所にはなんともう1匹オトナが!
同時に視野に入っていたのは2匹だけながら、なんとなくもう1匹いたかもしれない…。
同じ場所にいるからといって2匹がじゃれ合ったりケンカしたりということはなかったのだけど、↑この写真の子が他よりもほんの少し大きめだった。
で、注目すべきはその腹ビレ。
子供の頃からツンツンさせて目立たせているこの腹ビレ、この日撮った3個体の中でひときわロングロングフィン。
体高よりも腹ビレが長いのは、この場ではこの個体だけだ。
雌雄で体色の差はほとんど無いと言われるムナテンベラダマシのオトナだけれど、この腹ビレの伸長がオスの印なのでは??
ともかくも、群泳するほど多くはないにせよ、居るところに行けばちゃんと会えることがわかったのだった。