全長 6cm(写真は15mmほどの幼魚)
シーズン中、リーフ際近くの礫底にたたずむと、そこかしこの小石の近くに、きれいな青い小魚がいることに気づく。
そのそばにはたいてい黄色の小魚もいて、透明感のあるインディゴブルーとレモンイエローが、まるで踊っているかのようにも見える。
そのインディゴブルーの小魚こそが、このナガサキスズメダイ(の幼魚)だ。
スズメダイには地名をその名に冠しているものが多く、フィリピンとかオキナワとかアマミと言われると、なんとなく言わんとするところの気持ちはわかる。
でもなぜにこの長崎という、いわば微妙に中途半端な県名がついているのかは不明だ。
しかし長崎も知れば知るほど素敵な土地であることがわかるように、このナガサキスズメダイもその細部をよく観てみると、細やかに美しい模様が入っていることに気づく。
ただし目に鮮やかなインディゴブルーは幼魚の頃のみで、これから少し成長するとこうなる。
背びれ後端の眼状斑や眼の辺りのラインにまだ幼魚の名残が見えるものの、全体的にはくすんでくる。
これがさらに成長すると……
ボディからは青味がほとんどなくなる。
そして最終的には……
…ダークサイドの住人となる。
成魚になってからのほうがきれいになるスズメダイなんてほとんどいないとはいえ、何もここまで地味にならなくても…。
ここまで地味だと、海中では数多く集まっているオトナを観たとしても、陸に戻ってからそれを覚えているヒトはおそらく皆無だろう。
しかし、地味なオトナはオトナでも、なかには印象的なモノもいる。
変に浮いて見えるナガサキ君がいたから注視してみると……
わぁっ……ハリネズミ!!
というか、空腹のあまりウカツにもヤマアラシに突進してしまったクマのよう……。
あまりのことに、全身を納めきれなかった。
いったいなにがどうなっているのか、針っぽいものが密生しているところを観てみると……
うーむ……なんじゃこりゃ。
本人も困り果てているのか、ホンソメワケベラのそばで助けを求めていた。
しかしさすがの掃除職人ホンソメワケベラにも、どうやら手の施しようが無いようだった。
ある意味忘れ得ぬ出会いではある。
でも本人は、こんなことで印象派になりたくはなかったろうなぁ…。
地味ながらも個体数は多いナガサキスズメダイは、砂地の根の周辺部などに多く、群れるわけではなく、多数がテキトーに集まっている感じでたむろしている。
春先になると、たむろしているナガサキスズメダイの中に、背中あたりに白い斑模様を出したオスが、狭い穴から出入りしながらメスを誘うようになる。
これがナガサキスズメダイの婚姻色らしい。
オスが婚姻色を出す以外にオスメスの見分け方はなさそう……と思っていたのだけれど、よくよく観てみると、オスは尾ビレの先まで黒いのに対し…
…メスの尾ビレは半透明になっている。
春になるとオスがハリキリ始めるから、黒い尾ビレが半透明尾ビレにアピールしている様子をよく見かけるようになる(ただ、特に誰も張り切っていないときのナガサキスズメダイたちを見ると、どういうわけかみんな尾ビレが黒い。ひょっとするとメスの興奮色とか?)。
ナガサキスズメダイも、産卵床は他の仲間と同じく外からは見えない岩の隙間などの狭いスペースを利用する。
ある時苔むしたシャコガイの殻の間を頻繁に出入りしているナガサキスズメダイがいた。
その様子はひょっとして……。
忙しそうなところをちょっと失礼して、覗き見させてもらうと……
シャコガイの殻の内側には、卵がビッシリ!!
この卵をケアすべく、父ちゃんがしきりに出入りしていたのだ。
この卵たちを無事に孵化させるべく父ちゃんが頑張ってくれるおかげで、初夏にはまたインディゴブルーの美しいチビターレたちが海底を彩ってくれるのであった。