全長 2cm
このハゼを初めて見たときは、まだこんな冴えない名前(※個人の感想です)はつけられていなかった。
ただし、それ以前に石垣島でこの魚が発見されて話題を呼んでいたことは知っていて、見てみたいなぁと思ってはいた。
市民権を得つつあった当時の変態社会のみなさんも、きっと同じ思いだったことだろう。
そのハゼが水納島にもいたのだ。
20世紀最終盤のこと、当時クロワッサンのドレイ頭として働いてくれていたケンタロー氏が、空き缶を住みかとしているこのハゼ君を発見したのである。
え?魚を知らないケンタローが???
彼は仕事を離れると意味不明のディープダイバーと化し、なにを目的にするでもなく深いところに行っては、マゾヒスティックな快感に酔いしれているヒトである。
そんな彼がエキジット後、自信なさげにポツリと言った。
「水深40mくらいのところにあった空き缶に、黄色いハゼがいましたよ」
特徴を問いただせば、まぎれもなくこの魚だ。
でもなぁ、チョウチョウウオとヤッコの区別がかろうじてつくかつかないか程度のケンタローに、こんな小さな、それも深いところにいるハゼの区別がつくのだろうか。
半信半疑で行ってみると……
ホントにいた!!
この時ばかりは、彼の意味不明ディープダイビングがキラリと光ったのであった。
その後何度かその深場に通い詰め、ペアで住む彼らと深い絆で結ばれようとしかけたとき、巨大台風が水納島を襲った。
台風後真っ先にこの空き缶の場所へ駆けつけたものの、彼らは家もろともどこかに旅立ってしまっていた………。
当時名無しだったナカモトイロワケハゼ、ほんの束の間のご滞在。
しかしその「束の間」に、某有名写真家もまた、この空き缶ナカモトを撮影している。
そしてその時の写真こそが、うみまーるの写真集「Smile」に掲載されている、空き缶ハウスの窓から恥ずかしげに顔を覗かせているナカモトイロワケハゼなのだ。
近年のギョーカイでは、彼らナカモトイロワケハゼが定着するようにと、空き瓶をわざと海底に設置するのが流行している。
なかにはズラリと空き瓶を並べ、それぞれに入っているナカモトイロワケハゼを、ゲスト1人1瓶で割り振ってめいめいが撮影に励むところもあるそうな。
それをもって「水中写真」とか「海中写真」とか言われてもなぁ……。
近頃はそのような「自然」のポテンシャルを矮小化しつつビジネスに結び付けるダイビングサービスが増えてしまっているから、ヒトによっては瓶の中にいるナカモトイロワケハゼしか観たことがない、という方も多いかもしれない。
しかしナカモトイロワケハゼは、空き缶や瓶にだけ住んでいる魚ではない。
空き缶ナカモトとの出会い後、水納島では2度目がなかなか無かったのだけど、夏前になると高確率で出会える、ということがこのところわかってきた。
その時期になるとナカモトイロワケハゼがよく出現する場所を毎年チェックしているオタマサは、いろんな場所で暮らすナカモトイロワケハゼの姿を捉えている。
2013年はサボテングサらしき海藻についているナカモト。
2014年は小さな石についたカイメンの上でナカモト。
同じ年の7月、別の場所の何の変哲もない小石では、ペアになっていたナカモト。
その後なぜだか2年ほどお休みがあったあと、2017年になると遭遇ラッシュになった。
カイメンらしき付着生物についていたナカモト。
沈木を暮らしの場にしていたナカモト。
(おそらく)テングノハウチワという海藻にピトッ……とついているナカモト。
そして2019年は、やはり7月だからなのか、タカセガイの貝殻をマイホームにしてペアになっていたナカモト。
こうして見てみるとナカモトイロワケハゼは、5月くらいになると小柄な若い子たちが出現し始め、7月頃には彼らが成長してペアになっているらしい。
この貝殻は産卵床にもうってつけっぽいから、毎日覗いていれば卵を観ることができたかもしれない。
残念ながらこの時は……
不安げに外の様子を伺う顔だけだった。
卵があったにしても、もっと奥に産み付けているか…。
< だからこそのガラス瓶。
なるほどね………やらないけど。