全長 13cm
「ナミ」というだけあって、どこでも普通に見られるスズメダイ。
そのためダイビング業界では、まず脚光を浴びることはなく、彼らがいかに懸命に卵を守っていようとも、多くのダイバーはスルーする。
そこで通りすぎず、少しナミスズメダイにナミナミならぬ注意を向けてみると、意外に面白い彼らの暮らしぶりを知ることになる。
水納島の砂地のポイントの場合、リーフ際が主たる暮らしの場になっているナミスズメダイは、ムチカラマツも含めた死サンゴや岩肌(時には人工的なもの)を産卵床にする。
ご自慢の産卵床を整えたオスは、そこでメスに卵を産んでもらうべく、さかんにアピールする。
その際には体の色を斑に変え、やる気モードであることを全身でアピールしている。
そして見事彼女のハートをゲットしたオスは、産卵床にメスを導く。
産卵をする頃にはオスは穏やかモードになっているのか、体色は元に戻っていて、卵を産むメスを傍からそっと見守っている。
もちろんオスは見守るだけが仕事ではない。
すぐに受精させるオス。
ちなみにこうして産卵放精している際には、普段は体内に収納させている輸卵管・輸精管が見えている。
コンデジの自然光モードで撮っているため画質の悪い写真を無理矢理拡大すると…
時間をかけて輸卵管(矢印の先)から一粒一粒産みながら、次第次第に産卵床(ムチカラマツの肉が剥がれた部分)を、ピンクの卵で埋め尽くしていく。
さすがに産卵中のところを邪魔して卵のアップを撮るのは気が引けたのでこの場の卵たちは撮ってないけれど、ビッシリ産み付けられたナミスズメダイの卵はこのようになる。
女系社会のクマノミ類と違い、ナミスズメダイのオスはひとつの産卵床に複数のメスに産卵させるため、産みたての卵の傍らで、他のメスのための産卵床の整備に余念がない。
右側の肌色っぽいところが産みたて卵です。
メス1匹の産卵数はおおむね肌色の部分くらいのようだけど、その他のメスも産んだのだろう、一週間後のこの死サンゴの表面はこういうことになっていた。
死サンゴの表面はすべて卵。
オヤビッチャたちの場合、卵を守っているときにこそやる気モード色になることが多いけれど、ナミスズメダイは卵を守っているときは通常色だ。
死サンゴの表面に産みつけてある卵を守っているオス。
意外に冷静なのかもしれない…と思ったけど、目はテンパってる??
ナミスズメダイの卵は、産みたて直後は肌色っぽいやわらかな色をしている。
それが一週間ほどすると随分発生が進み……
もう目ができている。
そして無事に孵化したナミスズメダイ・チビターレたちは、初夏頃になるとワッと湧いてくる。
サンゴやウミシダに集まることが多いチビチビたちは、ドッシリとしたオトナの重厚感とはまったく異なり、スケルトン的儚げなか弱さを醸し出している。
さすがにこんだけ小さいと、あのオトナの幼魚時代と言われても、にわかには納得できないかもしれない。
しかしその後の成長過程を観てみると…
お?
さらに成長。
おお、ナミスズメダイじゃん!!
こんな清楚なナミスズメダイヤングが、初夏になると各所で大集合している。
これはいささか時機を逸してしまった8月に撮ったものだけど、6月末から7月中にかけては、もっともっとたくさんチビチビがいるのだ。
素通りしさえしなければ、けっして「並」ではない魅力を楽しむことができるナミスズメダイ。
ひとたびその魅力を知ってしまえば、シルエットまでがなんだか神々しく見えてくるのだった。