全長 2cm
この冬(2022年〜2023年)も、インリーフで潜る機会が例年に比べると随分多かった。
リーフ内で潜る時はほぼほぼマクロレンズ装備で臨んでいるから、クラシカルアイとはいえそれなりに細かいモノに注目することになる。
すると水深1mほどのところで、サンゴ群落の合間に育っているウミキノコ系ソフトコーラルの上に、2cmにも満たないイソハゼの仲間が乗っていた。
クラシカルアイでも肉眼でイソハゼの仲間だとすぐにわかったくらいだから、きっとたたずまいがイソハゼイソハゼしていたのだろう。
イソハゼの仲間がソフトコーラルに乗っているなんてシーンはあまり見かけない(記憶にない)から、「おッ!」とばかりにカメラを向けると、イソハゼ君はすぐさまソフトコーラルから降りてしまった。
色彩的にパッとしないから、何かの上に乗ってくれていればこそだったのだけど、とりあえず証拠写真のつもりで撮っておくことにした。
でも、こういう浅いところにいるイソハゼって、ひょっとするとこれまで撮ったことがない種類かも?
ファインダー越しにちゃんと観てみると、たしかにこれまで撮ったことどころか、見たこと(ちゃんと認識したこと)すらないっぽい。
これはちゃんと撮っておかねばならないのではありますまいか。
…と思ってジワリと近寄った途端、イソハゼ君は消える魔球のごとく姿を消してしまった。
結局じっくりお近づきにはなれなかったこのイソハゼ、はてさてその正体は誰?
帰宅後、名著「新版日本のハゼ」で調べてみたところ、どうやらこれはナンヨウミドリハゼというハゼのメスのようだ。
こういった浅いところではお馴染みの種類らしく、背ビレが長く伸びてかっこいいオスの画像もネット上でたくさん拝見できるくらいだから、少なくともいたからといって騒ぎ立てられる系のハゼではないらしい。
それにしても、「ナンヨウミドリハゼ」ってことは、イソハゼの仲間ではないってこと?
いえいえ、れっきとしたイソハゼ属のハゼなんだけど、どういうわけだか和名に「イソ」がついていないのでござんす。
先述のハゼ図鑑のイソハゼ類をチェックしてみたところ、この図鑑が刊行された2021年2月の時点で和名がついているイソハゼの仲間たちのうち、和名の形容詞や冠言葉が終わったあとの末尾が「イソハゼ」ではなく「ハゼ」で終わっているのは、なんとこのナンヨウミドリハゼだけ。
ひょっとして和名を提唱した研究者の方、「イソ」を脱字しちゃったとか?
その名のとおり本来はもっと緑色が綺麗そうな種類なのに、イマイチ冴えない色味で、しかも絵になるところにいるわけじゃなし、注目されることなど滅多に無さそうではあるけれど、イソハゼなのに「イソ」が無いという、妙なところで目立っているナンヨウミドリハゼなのだった。