水納島の魚たち

ニシキアナゴ

全長 50cm

 水納島近辺の海にニシキアナゴがいる、ということは、島に越してきた当初の95年時点で知ってはいた。

 が、実際に目にしたのは2000年のこと。

 普段滅多にいかない場所で、なるほど、フムフム、と眺めはしたものの、写真を撮るには至らなかった。

 なにしろ水深30m超の深いところだし、おまけにチンアナゴよりも遥かに警戒心が強い。

 そんな魚を相手に深いところで息をこらえてじっくり粘っていたら、体中窒素になってしまう。

 実はワタシが初めてこの魚を見たのはフィリピンのアロナビーチで、そこでもやはり深かった。

 ただし数多くいたから、撮影するに際しては、ひっこまなさそうな子を選ぶ余裕があった。

 それに対し、昔から一般に知られている水納島周辺のニシキアナゴときたら、群落と呼べるほど数多くはおらず、1匹が引っ込むと連鎖反応的に遠くのヤツまで引っ込む。

 撮影はアッサリあきらめた。

 ところがその年を皮切りに、普段よく潜っている砂地のポイントでも、ときおりニシキアナゴが観られるようになった。

 とはいえそこに何匹も居てくれるわけではなく、多くて2〜3匹、たいていはただ1匹だけ、チンアナゴのそばにポツリと佇んでいたりする。

 それでも水深が20m前後と浅く、この水深だったら長時間待機作戦が可能なので、じっくり時間をかけ、ジワリジワリと接近させてもらうこともできる。

 同じ子が同じ場所にずっと居続けてくれるということはないけれど、いたりいなかったりを繰り返しつつ、ある年にはボートを停めているあたり、水深にして10mそこそこに居てくれたこともある。

 例によってたった1匹ではあっても、エントリーしてすぐのところだったから、その年は多くのゲストにご覧いただくことができた。

 でもいくら浅くとも、やはり写真を撮れるまで接近するには彼らの警戒心の強さは一般的ファンダイバーにはハードルが高すぎるため、千載一遇の浅さに居てくれたにもかかわらず、長時間待機を甘受しつつ写真をものにしたゲストは限りなく少数派だった。

 そんな次第なので、ろくに写真は撮れないながらもこれまでに複数個体を目にしたことがあるわけだけど、見比べてみると微妙な体色の違いがあることに気づく。

 冒頭の写真はオレンジの部分よりも白い部分のほうが面積が大きいのに対し、逆のものもいるのだ。

 またこのほか、2色の帯の幅にほとんど差がない等分タイプもいる。

 成長段階によるものなのか、個体差なのか定かならないから、もう一度ちゃんとした群落で、多くのニシキアナゴたちが一堂に会しているところを観てみたいなぁ…。

 追記(2023年11月)

 本文中で述べている「水納島のニシキアナゴ」が観られる場所は、どういうわけかひとつのポイントに限られている。

 そこは他の魚たちでも他の砂底のポイントとは観られる魚が微妙に異なっているから、似たような砂底に見えて、きっと他の場所とは何かが違っているのだろう。

 その詳らかなところは不明ながら、近年は行けばたいていニシキアナゴを観ることができる。

 今年もやはり安定的に出会うことはできたものの、居たとしても1匹〜2匹が関の山で、これまで同じ視野の中に3匹以上居たことはなかった。

 ところが今秋(2023年)、上の写真を撮ったところでは、105mmマクロレンズという画角極狭の視野のなかに…

 ニシキアナゴが4匹も!

 しかもこの左右の画面外にあと3匹、都合7匹ものニシキアナゴが、3m四方内でニョロニョロしていた。

 視野の中に7匹だなんて、水納島におけるワタシ史上最多記録樹立だ。

 これまで出会ったニシキアナゴたちに比べてわりと近寄りやすかったのは、数が増えて気が大きくなっているからだろうか。

 それはともかく、この狭い範囲に7匹もいれば、「群落」といっても差し支えあるまい。

 でもチンアナゴのように2匹ずつにはなっておらず、それぞれがバラバラだったのだけど、もっともっとたくさんいるところでも、ニシキアナゴはペアごとにはならないのだろうか。

 前世紀のその昔、アロナビーチの深い砂底で観たニシキアナゴの群落ではどうだったっけ?

 フィルムを探せばニシキアナゴの単体の写真は出てくるだろうけど、群落全体を撮ってはいないはず…。

 ニシキアナゴの群落をフツーにご覧になれる方、テルミープリーズ!