全長 40cm
ベテランダイバーの嗜好は多種多様で、なおかつ際立った方向に特化する傾向にある昨今では、あらゆる方面に誰かしらがマニアックな興味を示すようになっている。
そんな多様な嗜好が広がるダイビングの世界ではあっても、地味すぎて誰も注目しないために「知られざる魚」のままでいるものもいる。
オキナメジナたちも、おそらくそんなグループの一員のはず。
オキナメジナはスズメダイのオバケのような魚で、リーフ際の穴や岩陰がたくさんある暗がりで複数が蠢いている。
マックス40cmほど、フツーに30cmくらいある大きな魚だから、存在感はそれなりにある。
しかしいかんせん体色が地味なために、多くのダイバーにとって「その他大勢」の魚になってしまう。
その他大勢のわりにはわりと神経質で、無造作にカメラを向けるととっとと逃げてしまうことが多いから、「知られざる度」はいっそう大きくなる。
ただ、どういうわけか井戸端会議でもしているかのように、リーフ際で集団のままジッとしていることもある。
また、たまには日の当たる場所で光を浴びていたいのか、リーフの上で静かにたたずんでいることもある。
もっとも、彼らがどこに居ようとも、その存在の地味さはいかんともしがたい。
ところが。
彼らの存在感が種子島宇宙センターから発射されたH2Aロケットばりに急上昇する時がある。
それは……
刺身!!(下はグルクンです)
本島方面ではもっぱらシチューと呼ばれるオキナメジナは、本土のザ・メジナがグレという名で通っていることもあって、同様にグレと呼ばれることもある。
釣果をどちらの名で呼んでいようとも、メジナ属のなかでは沖縄で最も個体数が多いのはオキナメジナだそうだから、まずこの魚と思って間違いはない。
ちなみに体側にある白線は、成熟すると消えていく傾向にある。
なので白線が無いからといってノットオキナメジナということではなく、むしろ大物の印と思っていい。
メジナをはじめとする他のメジナ属の魚に比べて藻食性が強いといわれるオキナメジナだから、本家グレに比べれば、時間が経てば経つほど藻食魚独特の臭みは増すのかもしれない。
しかし熟れ熟れ状態の釣れたてホヤホヤの刺身ときたら昇天級の美味しさで、ひとたびその美味しさを知ってしまえば、海中でオキナメジナを見る目がガラリと変わること請け合い。
かくいうワタシも美味しさを知るまでは通行人A級の脇役扱いでしかなかったオキナメジナだったのに、今ではすっかりヨダレをたらしながら指をくわえて眺めるようになってしまっている。
以前に比べ、オキナメジナたちがよそよそしくなったように見えるのは気のせいだろうか?