水納島の魚たち

オオスジヒメジ

全長 50cm

 砂地のポイントで潜っていると、遠くからでも海底から砂煙が上がっているのが見えることがある。

 少々の砂煙であればヤッコエイが餌を探しているときにも見られるけれど、それよりも遥かに激しく、何かが墜落したのかと思えるほどにモウモウと爆煙を上げている場合、その煙の原因はまず間違いなくこのオオスジヒメジである。

  彼は無心に餌を探しているだけなのだけれど、なにしろ他のオジサンの仲間にくらべてサイズがとんでもなくでかく、それが砂底に潜む餌を探す際に巻き上げる砂の量は半端ではなくなる。

 緩やかな流れがあるときなどは、その砂煙が流れに乗ってたなびいているので、ホントに何かの事故現場かと見まがうほどだ。

 そうやって餌を探している際は興奮しているからか、背ビレを惜しげもなく立ててくれていることが多い。

 でも普段は、ホンソメワケベラにクリーニングしてもらっている時でさえ背ビレを立ててくれない。

 なのであまり注目されることはないけれど、オオスジヒメジの背ビレはなかなかシャープでカッコイイ。

 他のヒメジ類に比べ、戦闘的なまでにシャープな背ビレのフォルムは、切れ味抜群の名刀のようですらある。

 そういえば顔つきも細面でシュッとしている。

 オジサンなんていう名前がついている種類がいるせいで、どちらかというと道化役側の立ち位置に置かれがちなヒメジ類だけど、オオスジヒメジのようにカッコイイ種類もいるのだ。

 でもやっぱり……

 ヒゲ面では二の線は無理かなぁ。

 オトナになるとジャイアント級になるオオスジヒメジなので、ときには他の魚に頼りにされることもある。

 行き場を失って途方に暮れていたのか、コバンザメがオオスジヒメジのお腹に。

 まだ幼そうなサイズとはいえ、ヒメジ類にコバンザメがついているのを観たのはこのときだけ(もっとも、何日かこの状態が続いていたけど)。

 コバンザメがつくほどジャイアント級になるオオスジヒメジにも、若い頃はある。

 白い砂地にいるオトナには見られない(薄すぎて見えないだけかも)黄色いラインが美しい。

 10cmくらいで可愛い幼魚だけど、やはり小さくともオオスジヒメジ、餌の探す際のパワフルな動きには、将来の姿を彷彿させるものがある。

 まだ幼い背ビレがシャープになる頃には、きっとジャイアント級になって爆煙を巻き上げていることだろう。

 追記(2021年12月)

 リーフの外で会えるオオスジヒメジの小さな子といえば、せいぜい上で紹介しているような10cm前後のものたちになる。

 ところがリーフの中、それも海水浴場あたりでは、もっともっと小さなチビターレが暮らしていた。

 これまでのミニマム記録を大幅に塗り替える、3cmほどのチビターレ。

 ブダイやベラの幼魚たちと一緒になって海底付近をチョコマカしていた。

 面白いことに、キングサイズのオトナも10cmくらいの若魚も、クリーニング中のウットリ色を除き、日中に体色を変化させるシーンなんて観たことがないのに、このチビターレときたら、カメラを向けるワタシを警戒して身を潜めているときに……

 色を変える!

 ストロボ光を当てると鮮やかに見えてしまうこの色は、たとえ水深1mそこそこでも周囲の小礫が作る陰影のようにも見えるから、目立たないようになっているのだ。

 ヒメジの仲間はオトナでもこのように状況に応じて体色を変化させるものが多いけれど、ドドンとでっかいオオスジヒメジが、日中に身を守るためにわざわざそのような小ワザを使うシーンなど観たことがない。

 ド級オジサン・オオスジヒメジの、チビターレ時代ならではの護身術ということなのだろう。

 これまで目にしたことが無かったミニマムチビターレ、近辺には他にも同サイズの子がチラホラ観られた。

 どうやらリーフ内の砂底が、彼らチビターレの安住の地のようだ。