全長 4cm
台風銀座の沖縄とはいえ、2012年の台風は特にひどかった。
夏の終わりごろになると、台風が発生するたびに「観測史上最強」という言葉が飛び交うストロングタイフーンの連発で、ふりかえってみればよくもまぁ生き延びたものだと自分自身に感心するほど(ボートはえらい目に遭ったけど…)。
そんな台風に続けざまに席捲されると、海中も大変なことになっていることが多い。
巨大な波濤は海底深くまで影響を及ぼすくらいだから、浅いインリーフやリーフ上、そしてリーフエッジ付近では、広範囲で物理的な破壊を受けている。
その他、それまで何も無かったところに突如岩が出現していて、その岩についているサンゴごとその後そこに鎮座する、ということもある。
台風後に潜ると、普段よく潜っているところほど変化が明らかだから、ついついチェックしてみる。
とある砂地のポイントのリーフエッジ付近でも、台風後に突如ヘラジカハナヤサイサンゴが生えていた。
リーフ上のどこからかにいたものが、台風で土台の岩ごと吹き飛ばされ、この場に鎮座したものだろう。
さっそく枝間を覗いてみたところ、冒頭の写真の小さな小さなカサゴがチョコンとたたずんでいた。
サイズはカスリフサカサゴくらいながら、体色の雰囲気はまったく違う。
はて、観たことがないぞ。
何かのチビかと思ったけれど、全体の様子に幼さが感じられない。
おそらくカスリフサカサゴ同様、小さな種類なのだろう。
その後は爆裂台風の直撃を受けずに済んでいたからか、このサンゴはもとからそこにいたかのようにこの場所で頑張っていて、枝間にいるこのチビカサゴも4年もの間ずっといた。
そして2016年になると、サンゴの白化危機が訪れた。
ストロング台風の連発が無くなったと思ったら、今度は台風が来ないせいでサンゴが再び危機になってしまったのだ。
すると枝間のカサゴは……
メルヘンワールドの住人になっていた。
その後ほどなくしてこのカサゴの姿は観られなくなってしまった。
4年くらいフツーに観ていたというのに、その間まったく正体を探ろうとしなかったワタシ。
というのも、オニカサゴとかフサカサゴといったこのあたりの仲間は近年狂ったように細分化されており、ダイビングで観察可能な種類だけでもやたらと多くなっているのだ。
実はそれは鳥羽のタコ主任の卒論研究に端を発していて、どうやらやたらと別種がいるようだぞ、ということが彼の卒論でわかってしまい、その後随分経ってから、湧いて出るように次々に新しい和名が登場する運びとなっている。
それでもまだ「未記載」だったり和名が無かったりするものが多く、このカサゴもシロウトがいくら探ったところで「不明」で終了だろう…
…と思っていたのだけれど。
どうやらこの小さなカサゴは、プチフサカサゴという名前がついているらしい。
英名でドワーフ・スコーピオンフィッシュと呼ばれているカサゴで、オトナのサイズが仲間内で最小なのだとか。
だからこその「プチ」フサカサゴという和名なんだろうけれど、「和」名で「プチ」ってどうなのよ……。
数少ないネット上の情報を見るかぎり、カスリフサカサゴのように暮らしの場をサンゴの枝間に特化させているわけではないようで、ネット上で散見できる生態写真を見くらべても「ビンゴ!」というものが少ない。
数多いカサゴ類のこと、これはひょっとするとまったく違う種類なのかもしれないけれど、他に該当者がいないので、とりあえずプチフサカサゴってことで…。
それはともかく、台風で吹き飛ばされたサンゴにいたってことは、普段はもっともっと浅いところにいるんだろうか。
ヘタをしたらもう二度と出会えないかもしれないというのに、4年もの間ずっといてくれたにもかかわらず、残された写真はほんの数枚だけなのだった…。