水納島の魚たち

ロクセンフエダイ

全長 25cm

 パッと見はヨスジフエダイに見えるこの魚、実はヨスジではなくてロクセンフエダイである。

 よく見ると、なるほどたしかに、ヨスジに比べてラインが多い。

 ただし、実際に数えてみれば、体の大半の部分は6線じゃなくて5線。

 なんだ、ゴセンフエダイじゃないか…

 …と思いきや、エラ蓋あたりのラインはちゃんと6本あった。

 いちいち線の数など数えていられないという方は、体色の濃さだけでも見分けることも可能だ。

 ヨスジフエダイやベンガルフエダイはお腹側が白くなるのに対し、ロクセンフエダイはお腹まで黄色く、全体的な色味も濃い。

 このロクセンフエダイ、図鑑の中には、「ヨスジフエダイと群れることはない…」と書いてあるものもあるけれど、水納島周辺では両者の群れが仲良く入り混じっている場所もある。

 ただしロクセンフエダイはヨスジフエダイに比べて警戒心が強く、近寄るとすぐに岩陰に隠れようとする(右下の岩陰にたむろしているのがロクセンフエダイ)。

 このようにヨスジに混じっているロクセンフエダイには、年ごとの個体数の増減はあっても、ロクセンフエダイのみで群れているのは観たことがない。

 また、夏前には砂地の各根でチョロチョロとチビターレの姿を見かける。

 ロクセンフエダイの幼魚は、体後半部に日常的に眼状斑があるので見分けるのは簡単だ。

 ただし白い砂地の根の底付近にいるときは、体色を随分白っぽくしている。

 パッと見同じ魚とはとても思えないけど、体色の濃淡を変えるのは魚たちのいわばお家芸だから、これくらいの色違いは脳内変換で対応しなければならない。

 濃淡いずれにせよチビターレもやはり個体数が少ないのか、ひとつの根に多数の幼魚がいることは稀で、たいていの場合1、2匹しかいない。

 そのため、キンメモドキの群れにただ1匹だけ混じっていると、リアルスイミー状態になる。

 写真が小さすぎてわからないかもしれないから、もう少し拡大。

 おお、スイミー!

 ヨスジフエダイの群れに混じっているオトナも、そこに1匹だけしかいなかったらある意味スイミー状態だ。

 もっとも、周りも似たような感じだから、「僕が目になるよ!」といったところで、誰も目とは思ってくれないのだった。

 追記(2021年8月)

 シーズン中でもポツポツ…くらいしか観られなかったロクセンフエダイのチビたちが、ここ数年(2021年現在)はどういうわけか、初夏になると砂地の根にまとまって観られるようになっている。

 これじゃあスイミーにはなれないけれど、ロンサムチビターレよりは仲間がいるほうが楽しいに違いない。

 初夏には3〜4cmほどだったチビたちは8月頃には6cm前後にまで育っていて、うまくするとそのまま同じ場所で、ヨスジフエダイのチビたちとともに群れている。

 さらにひと月経って9月になると、10cmほどの若魚となるまでに育ってはいるのだけれど、残念ながら数は随分減っている。

 そして冬を迎える頃には、1匹も残ってはいない…。

 ロクセンフエダイたちがその場所で成長して群れを形成するというのは生半可なことではない、ということなのか、それともオトナになるともっと住み心地のいい環境を求め、暮らしの場を変えているということなのだろうか。

 そういえば、昔からヨスジフエダイの群れに混じっているのが確認されている根では、このところロクセンフエダイの数が以前よりも増えているような気もする。

 その隣の根には同じようにヨスジフエダイが群れているにもかかわらず、その群れにはロクセンフエダイは1匹も混じっていないのに、なぜだか件の根では増えていくロクセンフエダイ。

 居住環境という点でその根を詳細にわたって分析すれば、ロクセンフエダイにとっての「暮らしやすい場所」が明らかになるかもしれない。

 追記(2022年5月)

 上記本文中でも触れているように、チビチビにはシーズン中そこかしこで会えるのに、オトナが暮らしている場所はほぼ1か所限定のロクセンフエダイ。

 たくさんいる子供たちは、いったいどこに行ってしまうのだろう?

 みんながみんな、食べられてしまっているのだろうか…。

 その答えは、唯一オトナが暮らしている場所にあった。

 というのも、ここ数年はその根のロクセンフエダイの数が増えているような気がしてきて、それでも「昔に比べれば増えた」という程度だと思っていたのだけれど、昨年(2021年)には、実はそれどころではなくかなり増えているんじゃなかろうか…ということに気がついた。

 その年の暮れ頃になると、目に見えて明らかになっていた。

 流れがほとんどなかったこともあり、キレンジャーたちは根の上方でゆったり群れていたのだけれど、なんとヨスジメインの群れとロクセン主体の群れに分かれていたのだ。

 右側がヨスジオンリー、左側がロクセンが多い群れ。

 ヨスジフエダイはともかく、普段はすぐに岩陰に潜もうとするロクセンフエダイもこのように宙で群れるんだなぁ…。

 でもこれじゃあヨスジだロクセンだなんていっても区別不能なので、ロクセンメインのほうに注目してみた。

 「ヨスジの群れのなかにポツンと1匹」時代から比べれば、圧倒的な増加といっていい。

 毎年各根で生き残ったロクセンフエダイのチビ〜若魚たちは、どうやらここに大集合していたらしい…(※個人の推測です)。

 それにしても、なぜこの根にだけ?

 この根と10mほどしか離れていない隣の根でもヨスジフエダイはフツーに群れているのに、どういうわけだかそこにロクセンフエダイは昔から1匹も観られない。

 その根とこことで、ロクセンフエダイにとっていったい何が違うんだろう?

 このテの魚が美味しいことを知っているヒトはたくさんいても、そのテの話に詳しい人はそうそういないのであった。