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ミナミゴンベやヒメゴンベたちがいるところよりも、やや浅いところで多く見られるサラサゴンベ。
なんの変哲もないリーフ際の死サンゴ石ゴロゴロゾーンでさえ見られるところが、前2種と異なる。
もっとも、そのような味気ない場所で見るよりは、サンゴなどに乗っているほうが絵になる。
そういう意味では、サラサゴンべはフォトジェニックな場所にいてくれることが少ない。
なので、ちょっとした塊状サンゴにチビがチョコンと載っているだけで……
…シャッターチャンス!ってところだ。
ゴンベ類は英名で「ホークフィッシュ」、つまり鷹魚といわれるのだけど、彼らを見る限り「鷹」というイメージはどうも湧いてこない。
特にサラサゴンベなど、見るからにかわいげがあってほほえましい。
でも見ようによっては凛々しくもある。
そして大きく口を開けようものなら…
ちょっぴり「鷹」っぽいかも(アクビをしているだけですが…)。
サラサゴンべはリーフ際の浅いところに多いので、普段からダイバーを見慣れている子が多いからだろうか、好奇心が強いのは他の仲間同様ながら、それに加えて恐れを知らない不動心をも持ち合わせている。
あるとき、いつものようにチョコンと岩の上に載っているサラサゴンべの近くを、フエヤッコダイが通りかかった。
フエヤッコダイといえば、ダイバーなら知らぬヒトとていないチョウチョウウオの仲間で、遠目にも目立つ黄色い体とヘンテコな細長い吻が特徴的だから、よほどのことでもないかぎり一度目にしたらけっして忘れない魚のひとつでもある。
そんなフエヤッコダイたちは、その長い吻を使ってエサを摂る。
このときはたまたまサラサゴンべの近くにターゲットとなる何かがいたらしく、やけに執着しはじめたフエヤッコダイ。
いくら温厚そうなフエヤッコダイとはいえ、目と鼻の先で自分よりも遥かに大きな魚がエサを漁っていれば、危険を感じてサッサとその場をさりそうなもの。
ところがサラサゴンべはどこ吹く風、我関せずとばかりに落ち着き払っていた。
どこ吹く風。
どこ吹く風。
もひとつついでに、どこ吹く風。
そして最後に、どこ吹く風。
写真で見るとおとなしげに食事をしているように見えるフエヤッコダイも、実際は貪るように獲物をつついているから、動きはけっこう激しい。
なので、いつ逃げ出すんだろう…と思って観ていたところ、サラサゴンべはとうとう最後までビクともせず。
その泰然自若とした受け流し方は、白いモビルスーツが闇雲に撃ってくるビーム兵器を、スウェーだけでサラリとかわすランバ・ラル級といっていい。
まさに不動の心、達人の域である。
このサラサゴンべを撮影しようとして、逃げられてしまったという方は……
ご自身が海中でよほど危険なオーラを放っている…と自覚した方がいいかもしれない。
そんな不動心サラサゴンべたちは、水温が温かい時期の日没くらいに産卵を行うようだ。
直接観たことはないのだけれど、とあるゲストが夕暮れ時にダイビングをしていて、それと気づかずに撮ったムービーに、サラサゴンベのペア産卵の一部始終が捉えられていたのだった。
今はともかく当時はサラサゴンベの産卵シーンの映像なんて世の中に出てなかったはずだから、誰も観たことがない千載一遇のチャンスをものにしたといっていい。
とあるゲスト=ごっくん隊隊長、ただの酔っ払いではなかった。