水納島の魚たち

サラサハタ

全長 40cm

 沖縄本島近海では、相当珍しいサラサハタ。

 亜熱帯ではなく「熱帯」が本来の住処なのかもしれない。

 沖縄で出会ったサラサハタといえば、その昔学生の頃、渡久地港を出てすぐのパッチリーフ(水納丸がジグザグに航行する水路のあたり)で潜った際に、オトナに出会ったことがあるくらいだ。

 それは海洋博水族館(美ら海水族館になる前)の水族館を取り巻く海の魚類相調査のアルバイトでのことだった。

 魚類相調査といっても、もとより魚の種類など細かいことはさっぱりわからない学生時代のワタシだから、実際に調査をする学識豊かな方のバディという意味合いだけの存在で、目にする魚を片っ端からニコノスで撮っていればいいだけ。

 ほとんどファンダイビングをさせてもらいながらお金がもらえる、なんとも有難いアルバイトだ(10日間ほどやらせてもらったおかげで、使い込んでいた授業料を払うことができた。潜水士免許が活かせるアルバイト、万歳)。

 エキスポ港からボートを出し、水族館周辺のいろんなところを潜らせてもらったその調査では、まだクロマグロの養殖場など影も形も無かった頃の、渡久地港沖のパッチリーフも調査エリアだった。

 河口港の沖だから、備瀬あたりに比べればもちろん水は濁ってはいた。

 けれど、クロマグロ養殖が盛んになって以後のドロドロ濁りではまったくなく、離れていてもバディの姿が見える程度には、水はきれいだった。

 汽水域に接している内湾となると、当時普段からよく潜っていた本島の各ダイビングポイントとはまったく異なる環境だ。

 なので目に映るモノすべてがかなり新鮮で、チリメンヤッコが集団といっていいくらいたくさん泳いでいたりするなど目を疑う光景をいくつも目にしたほか、珍しい魚たちをたくさん観ることができた。

 そのひとつが、前述のサラサハタのオトナである。

 1ダイブにつき36枚+αしか撮れないフィルムカメラにもかかわらず、本来の目的そっちのけで、興奮のあまり何度もシャッターを押してしまったのは言うまでもない。

 海外では、これまたその昔仕事で行ったオーストラリアはケアンズのグレートバリアリーフで潜った際に(潜ること自体は遊びでしたが…)、やはりオトナのサラサハタに出会った。

 ワタシのこれまでの半生において、この2度しかサラサハタに会ったことがない(と思う)。

 そのレア度からすれば、さすがに水納島にはいないかなぁ……

 ……と思いきや。

 今オフ(2019年1月)、昔撮ったポジフィルムをいろいろ振り返っていたところ、なんとオタマサはサラサハタのオトナを水納島で撮っていたではないか。

 オタマサの極めて朧に霞んだ記憶によると、どうやら岩場のポイントの、水深30mくらいの崖あたりのようだ。

 水納島にもいたんだなぁ、サラサハタ。

 後にも先にも、水納島に現れてくれたサラサハタは、我々が知るかぎりこの1匹のみである。

 ネット上で散見できるサラサハタのフィールド写真は、その撮影地の多くが東南アジア諸国やグレートバリアリーフ、はたまた季節来遊漁で幼魚が出現する伊豆その他本土の海で、沖縄で撮影されたものは極めて稀だ。

 オトナも幼魚もどちらもレアながら、アドレナリン噴出度でいうなら圧倒的に幼魚に軍配が上がるだろう(会ったこと無いけど)。

 サラサハタの幼魚は昔から観賞魚業界でも人気の魚だけあって、純白の地に黒い水玉がとっても可愛い。

 また、それぞれのヒレが大きいから華やかで、そのエレガントさは、知らなければ初見でハタのチビターレとはわからないかもしれないほどである。

 是非ともこの子に海で出会ってみたい。

 でも……25年間でオトナ1匹という出現頻度じゃあ、水納島でサラサハタの幼魚に出会うよりも、年末ジャンボ宝くじの1等に当たるほうが先になるか? 

 < ってことは、永久にチャンスは無い。