全長 35cm
タテジマキンチャクダイに比べるといささか地味ではあるものの、ワタシは昔からこっちのほうが好きだった。
タテキン同様斜に構えつつ泳ぎはしても、サングラスをしていない分、茫洋とした貫禄がある。
サザナミヤッコやタテキンたちは、底から随分離れた中層を悠々泳ぐ、ということはなく、何かあったらすぐに隠れられるような岩陰のそばで、ゆったりゆったりと泳いでいる。
研究者によると、この仲間たちはハレムを持つ、という。
でも我々が普段理解しているところのハレムといえば、複数のメスが集まっている中にオスが1匹、というものだ。
ところがタテキンにしろこのサザナミにしろ、そのような様子を見たことはない。
そのため、研究者の説はウソだろ〜と思っていた。
が、よくよく聞いてみると、このハレムというのはなんと何百mにもわたる広い範囲のもので、その範囲にオスが複数のメスをかこっている、というのだ。
つまり通常のファンダイビング1本では彼らのハレムをまわりきっていないことになる。
スケールがまったく違った。
ただしその研究はグレートバリアリーフでのものらしいから、沖縄でもまったく同様の生態なのかどうかは知らない。
仮にそのとおりだとすると、水納島のような小さな島にははたしてどれほどのハレムがあるのだろう。
そのあたり、富と時間があればじっくり調べてみたい気もする。
サザナミヤッコもオトナと幼魚でまったく体色が異なるのだけれど、タテキンと違ってサザナミの幼魚はオトナよりも浅いところを好むようで、むしろリーフの内側くらいの環境が好みのようだ。
なので、リーフ外で行うクロワッサンのボートダイビングでは、サザナミヤッコの幼魚と出会う機会はほとんどない。
その点カモメ岩付近のインリーフで潜ると、ハマサンゴの根の岩陰などでその姿を拝むことができる。
また、2018年のシーズン中には、普段当店のボートを留めている桟橋脇に、チビターレが出現してくれた。
3cm弱ほど。
このサイズとなると、ビーチエントリーでよく潜っていた学生時代以来の出会いだ。
その後秋まで桟橋周辺で少し成長した姿を確認できたけれど、秋の爆裂台風で跡形もなく消え去ってしまった…。
サザナミヤッコの幼魚とオトナも、これまたそうと知らなければとても親子とは思えない劇的な色彩変化。
でもオトナの体色になりかけの子に出会うと…
両者が同じ種類の成魚と幼魚であることがわかる。
これからさらに成長すると……
体色は随分オトナに近くなる。
ところで、サザナミヤッコのオトナといえば、妖しく輝くブルーで縁取られた模様が気品溢れていて、岩陰などで目にするとエレガントさが際立つ。
また、こちらを覗き見る表情など、時として可愛く見えもする。
そんな気高くも気品溢れるサザナミヤッコも、時にはアクビもする。
なるほど、これがサザナミヤッコのアクビか…
…と安心するのは早かった。
さらにリラックスした果てには……
え”?
え”――――――――ッ!?
な……なんちゅう顔に!
ほとんどツノダシになっちまってるじゃないか。
百年の恋もいっぺんに醒めてしまいそうな物凄い形相を前に、ただただたじろぐしかなかったのだった。
幼魚の頃はインリーフに、オトナになるとリーフ際付近の浅いところ、というのがサザナミヤッコのもっぱらの居場所だ。
しかしタテキン同様近年は、昔じゃあり得なかった水深にまでオトナが現れることも。
ヨスジフエダイたちが群れている根にサザナミヤッコのオトナだなんて、昔じゃ考えられなかったんだけどなぁ…。
だからといってリーフ際で観られなくなっているわけではなく、時にはツーショットのチャンスも訪れる。
ロクセンヤッコなら当たり前のツーショットも、サザナミヤッコの場合はけっこう千載一遇だったりする。
こういうシーンがいつでも見られるくらいに、いつまでも当たり前にいてほしいと切に願う。