全長 3cm
まず最初にお断りしておくと、冒頭の写真の魚がホントにセボシウミタケハゼなのかどうか、はなはだ心もとない。
その特徴である第1背ビレ付け根真ん中付近の「背星」模様がうっすらと見えるからまず間違いないとは思うものの、うっすら過ぎてビミョー。
なにしろ2004年に刊行された名著「日本のハゼ」のセボシウミタケハゼの項では、備考として
体色にはいくつかのタイプが見られ、今後、精査が必要。
とあったほど。
その「日本のハゼ」から16年の時を経て、今年(2021年)2月についに新訂・増補版が刊行された。
さっそくセボシウミタケハゼの項をチェックしてみよう。
するとその備考の欄には…
体色にはいくつかのタイプが見られ、今後、精査が必要。
16年経っても変わってないじゃん……。
アカデミック変態社会の方々が16年かけてもいまだ詳細不明なことを、ワタシごときにわかるわけがない。
というわけで、あくまでもここでは「セボシウミタケハゼと思われるウミタケハゼの仲間」ということでご理解いただきたい。
セボシウミタケハゼは特にこれという宿主を決めているわけではないようで、ガラスハゼ類のように宿主がさほど種類の手掛かりになってくれない。
また、先ほど引用した備考にもあるように体色は一定ではなく、宿主に合わせているようなので、ときにはこんなに黄色いものもいる。
でも経験的に最もフツーにセボシウミタケハゼが暮らしている宿主といえば……
ご存知ウミキノコ。
キノコのようなソフトコーラルの一種だ。
セボシウミタケハゼは、その表面、もっぱらキノコの傘で日陰になるあたりにチョコンとたたずんでいる。
ただ、このように見た目が正位置になることは滅多になく、たいていの場合逆向きになる。
もっとも、逆さであろうとここまで近寄らせてくれればメッケモノで、多くの場合シュッ…と素早く動き、見えないところに移動してしまう。
待っていればまた同じ場所に戻ってきてくれるのだけど、とりたてて珍しいハゼというわけじゃなし、そこまでしてじっくり観ようとする方は多くはないと思われる。
そんなつれないセボシウミタケハゼながら、時にはウミキノコの上側に佇んでいることもある。
ウミキノコの上側といえば、ポリプがお花畑のようになっているから、これがけっこう絵になる。
ウミキノコがわりと浅めの海底に観られるソフトコーラルなのに対し、一般にトサカ類と呼ばれるソフトコーラルはけっこう深めで、そういうところにもセボシウミタケハゼは住んでいる。
その他、ウスコモンサンゴ系の裏側や、ナマコの表面(もっぱら幼魚)、カイメンなど様々な生き物に寄り添っているセボシウミタケハゼなので、いつでもどこでも出会える魚といっていい。
ところが。
2021年現在もなおフツーに観られることは観られるのだけれど、なんとなく数が減っている気がしてきた。
そういえば、ウミキノコのポリプのお花畑にチョコンと乗っているセボシウミタケハゼなんて、ここ10年以上観ていないかも。
はて、なんでだろう…と朧げに考えていたところ、ハタと気がついた。
たとえば、すぐ上の写真のセボシが乗っているトサカ類は、以前はとあるポイントの水深30m以深に行くと、それこそ群落といっていいくらいにかなりの密度で広範囲の砂底からニョキニョキ生えていたのだけれど、それらは今ではすっかり失われてしまっている。
また浅場では相変わらずよく観られるウミキノコも、以前はある程度水深がある砂底でもそこかしこに観られたはずなのに、目に見えて数を減らしている。
なぜか。
どうやら砂に埋まってしまったらしい。
度重なるリーフ内の浚渫や砂移動の事業と毎年の台風の合わせ技で、航路からリーフ外に大量の砂が流出し続けたためと思われる。
いつでもどこでも会えるから、シュッ…と裏に逃げられてしまったらそれでおしまい、と諦め続けているうちに、やがて全然会えない日が来てしまうかもしれない。
セボシウミタケハゼとお近づきになるなら、まだかろうじてフツーに出会える今のうちに是非。
※追記(2023年1月)
ウミキノコが激増したということはないものの、ウミキノコについているセボシウミタケハゼを目にする機会がチョコチョコ増えてきた。
というか、これまでもいなかったわけではなく、近年はこのサイズの生き物を凝視するのがつらくなっているから、観ようとしていなかっただけとか?
昨年(2022年)はクラシカルアイにムチ打って、スモールクリーチャーを凝視していた期間が長かったこともあり、ミズタマサンゴに乗っている子にも出会えた。
ミズタマサンゴといえばアカスジウミタケハゼ御用達かと思いきや、セボシウミタケハゼもつくんですね。
そうかと思えば、さすがなんにでも乗っかっているハゼ、こんなところにもいた。
さて、これは何の上でしょう?
そう、アオヒトデ。
もっとも、このアオヒトデのすぐそばにウミキノコがあって、このセボシ君はそのウミキノコとヒトデを行き来しているようだった。