全長 10cm
スノーケリングで楽しめるような、浅いサンゴ礁でよく見られるセダカギンポ。
遠目からなら、サンゴの上にチョコンと乗っている姿を観ることができる(警戒心が強いので、近づくとすぐに逃げる)。
ただしそれは、サンゴが健全な場合だ。
セダカギンポたちは、隠れ家も産卵床もサンゴに頼り切っているから、サンゴが無ければ暮らしが成り立たない。
そのため98年の白化でミドリイシ類をはじめとする主だったサンゴが壊滅した水納島のリーフでは、その後長らくセダカギンポはかなりレアな魚になっていた。
それから十数年経ってようやくサンゴが復活してくると、セダカギンポたちは再びそこかしこで姿を見せるようになってくれた。
ところで、セダカギンポのドット模様は、サンゴの枝間にいると抜群の隠ぺい効果になる。
ストロボを当てた写真よりも、モノクロにしたほうがそれはわかりやすい。
サンゴが群生していれば、このカモフラージュが抜群の効果を発揮する。
ところが2016年に再び異常高水温が続き、またしてもサンゴが白化して壊滅する瀬戸際に追い込まれてしまった。
サンゴが白化してしまうと、隠蔽されていたはずのセダカギンポが、クッキリ目立つようになってしまっていた。
このままここのサンゴ群が壊滅してしまえば、またしてもセダカギンポの姿は消えていたことだろう。
幸いこの年の白化は、98年のときのようなサンゴ壊滅とまではいかず、リーフ内やリーフ上のごく浅い区域を除き、すんでのところで踏みとどまったサンゴが多かった。
おかげでセダカギンポも、現在(2018年)は元の暮らしを取り戻している。
オトナのセダカギンポはわりとガタイがでかいので、ヘラジカハナヤサイサンゴやミレポラなど、枝間の広いサンゴ類を好むのだけど、子供の頃は枝と枝の隙間が狭いミドリイシ類にも住んでいる。
彼らもサンゴの上に乗っているものの、これがまた極めてシャイなので、近寄るとすぐにサンゴの隙間に逃げてしまう。
サンゴの上にチョコンと載っているところなんて、撮りたくてもなかなか撮れない。
枝間が広くて隙間から覗き見ることができれば、そのあどけない姿をかろうじて拝むことができる。
どういうわけか砂地の水深15mちょいくらいの根で育っていたサンゴに暮らしていたこのチビターレ、本来はリーフ上に住んでいたはずのところ、爆裂台風か何かのせいでここまで吹っ飛ばされてしまったのだろうか。
秋口に出会ったこのチビターレを撮ったのは10月のこと。それから3か月経った翌年1月には…
…すっかり成長していた。
オトナのセダカギンポも警戒心は強いからサンゴの枝間に逃げるのは同様ながら、リーフ上にたくさんある枝間が広いサンゴ類に住んでいるため、隙間からほぼ全身が見えることが多い。
体が見えれば、オトナなら体色で雌雄を見分けることができる。
縄張り内に複数のメスを従えているらしいオスは、背ビレから体の後半にかけて赤っぽくなる。
メスも若魚の頃に比べれば多少赤味が加わっているけれど、オスほどには赤くならない。
水温が高くなると、彼らは繁殖期を迎える。
サンゴの枝間で2匹でいることが多く、その住処をよぉ〜く見ると、卵が産みつけられていることに気づく。
上のメスの写真のサンゴの表面が黄色くなっているところが、セダカギンポの産みたての卵だ。
サンゴの枝間を産卵床にしており、縄張り内で囲っているメスに産ませた卵を、オスが健気に守っている。
普段はシャイなセダカギンポも、こういうときは観察しやすい。
初夏から秋口にかけてが繁殖期になる彼らの産卵タイムは午前中なので、タイミングが合うと産卵中の様子も観ることができる。
オスが整えた産卵床に、メスが黄色い卵を産みつける。
するとオスが卵に受精させる。
この受精作業中のオスを見ていたとき、お腹の下に青いへんてこなもの(矢印の先)が付いていることに気がついた。
はて、これは何??
アップ!!
なんと、ブラシ状の受精装置!!
まさかこんなものがセダカギンポについていたなんて……。
その後インドカエルウオでもチラッと目にしたことがあるので、この仲間の特徴なのかもしれない。
オスはこの受精ブラシ(?)を使い、卵にブラッシングするかのように腰をくねらせつつ、受精させているのだ。
その様子を動画でも…。
もう少し拡大。
オスのブラシの様子も…。
こうして産み付けられた卵は黄色で、発生が進むと卵に目ができたりして黒っぽくなってくるようだ。
産卵床をよく観てみると、産みたて卵のほかにも卵が産みつけられていることがわかる。
おそらく別のメスに産ませた卵と思われる。
縄張り内に複数のメスを囲っているオスは、メスたちが卵を産むたびに、セッセセッセとブラシを使って受精させているのだ。
ハレムと聞くと、世の男性は多かれ少なかれうらやましげな夢想をするものだけど、魚社会のハレムはけっこう重労働のようだ。
ひと仕事終えたオスは、プハー…とばかりに吐息を漏らすのだった。