水納島の魚たち

ハナアイゴ

(セダカハナアイゴ?)

全長 30cm

 このテのアイゴ類には「オンレー」という沖縄方言名がちゃんとあるようなのだけど、水納島でエーグァーといえば、まずこのハナアイゴのことをさす。

 というのも、ハナアイゴは島のビーチエリアにたくさんいるため、桟橋や突堤から竿を振ればヒットすることが多く、釣果としてのアイゴ類といえばカーエーかエーグァーの2種類の呼び名しかないのだ。

 島の太公望の宿に泊まれば、2泊目3泊目に島で釣れたエーグァーの料理が出ることもある。

 定番のマース煮も美味しいけれど、ニンニクバターソテーにしてもたいそう美味しい。

 大漁のときはたまに釣果のおすそ分けをいただけるので、我々にもお馴染みの魚だ。

 このハナアイゴは海水浴場で泳いでいればもれなく出会える魚でもあるから、生きている姿なら海水浴客にもお馴染みだ。

 アイゴといえば茶色、というイメージとは異なり、涼し気なライトブルーの群れがのんびり海水浴場内を泳いでいる。

 ただし海水浴場内の魚たちは、お客さんがソーセージなどで餌付けをしているためにヒトを恐れることがなく、エサなど持っていなくてもたちどころに近寄ってくる。

 エサ(のように見えるモノ)など手にしていようものなら、ピラニア級の激しさで貪り食おうとするほどだ。

 フツーに泳いでいる時は畳んでいるから目立たないヒレが、こういうときは身動きするたびに全開状態になる。

 アイゴ類の背ビレ、腹ビレ、そしてこの尻ビレを支える棘はやたらと太く、釣り人ならよくご存知のとおり、アイゴ類はここにけっこう強力な毒を備えている。

 毒といってもフグ毒とは違って食べる時にはなんの問題もないものの、釣ったアイゴから釣り針をはずすときやさばくときなどに誤ってブスッと刺さると、相当な痛みを味わうことになるから気をつけなければならない。

 彼らが海中でその毒を利用してヒトに襲い掛かるなんてことはないけれど、そんな毒針全開でヒトからエサを貰おうと激しく泳いで近寄ってくるハナアイゴは、よく考えるとけっこうアブナイ魚かもしれない……。

 ところで、このように海水浴場で出会うハナアイゴたちは、ほぼ例外なく体表に黒点が散らばっている。

 長い間ワタシはこの黒点を、ヒトが餌付けで与える食べ物に含まれている添加物由来なのだと思っていた。

 各種食品に含まれている添加物は、たとえヒトには許容量でも、他の生き物にとっては害になるものも多く、実際に餌付けに由来する魚たちの症状もある。

 いろいろな図鑑に載っているハナアイゴ(とそっくりなセダカハナアイゴ)の写真を見ても、ビーチで見られるような黒点があるものが載っていない、ということも、餌付け由来説を裏づけていると思っていたのだ。

 ところがネットで画像検索してみると、海中での写真であれ釣果であれ、この小さな黒点がついているものをけっこう見かける。

 この黒点って、ハナアイゴの特徴のひとつなんですかね??

 ビーチではない場所で撮った、おそらくハナアイゴと思われる4cmほどのチビチビを見てみると……

 ありゃ、どっちの子にも黒点がある。

 ビーチにいた10cmくらいの若魚を見てみると……

 傷があるだけで黒点は無い……。

 謎は謎のままになってしまった。

 体色といえば、ビーチで観られるものは、このように淡い水色が基本の色味なのだけど、梅雨時くらいから秋の初めにかけてリーフ上やサンゴ群生ゾーンで出会う(おそらく)ハナアイゴの群れは、ときとしてまったく異なる色になっている。

 これが大集団になって、リーフ上をバッファローの群れのごとくガシガシ通過していく。

 同じ藻食性のサザナミハギやオスジクロハギの群れと混ざり合いながら、リーフ上のここという餌場では、全員が狂乱状態のようになって藻を貪り食べつつ移動を続ける。

 こんな黒い集団がまさかビーチのライトブルーと同じ魚などとはとても思えなかったのだけど、エサを食べている時など集団興奮状態の時は黒っぽくとも、泳ぎ去る時には群れのなかに色を淡く変えているものもいるのだ。

 これは体色が異なる2種類が混じりあっているのではなくて、NT-Dを発動させたり終らせたりするユニコーンガンダムのように、1匹1匹が体色の濃淡を瞬時かつ自在に変えている。

 その淡い色味は、やはりハナアイゴっぽい。

 そして時としてこのハナアイゴ集団は、とてつもない巨群になることもある。

 小さな写真だとまるでデバスズメダイのようながら、1匹1匹は20cm超のハナアイゴたちだ。

 いったい普段はどこにいるのみなさん?と訊きたくなるほどの巨群、これは繁殖のための儀式なのだろうか。

 岩場のポイントの水深10mより深いところでのことだから思いっきりリーフの外なんだけど、群れの一部をよく観ると……

 体表に黒点がチラホラ見える。

 これは、普段はリーフの中で暮らしながらときおりヒトが与えるエサを食べているものが儀式のためにリーフの外に出てきているのか、添加物とはまったく関係なく黒点が入るってことの証左なのか、どっちなんだろう? 

 やっぱり謎のまま。

 ハナアイゴには、この黒点や体色の濃淡以外にも、図鑑で記されていない気になる細部がある。

 というのも、NT-D発動中のブラックバージョンになっている間の彼らの尾柄部を見ると……

 その上端に白い模様がついていたり、何の模様も出ていないものが。

 一方、群れの中でノーマル状態に戻っているものたちを見てみると…

 その部分には黄色い模様がついている。

 デバスズメダイかと見紛う群れを作っているものたちもまた…

 尾柄部上端に黄色い模様があるものがいる。

 一方ビーチで観られるお馴染みのモノたちの尾柄部にも……

 あった(見やすくするためコントラストを強めています)。

 先に紹介したビーチの若魚にも、黄色い模様が目立つ。

 群れ全体を観るとこの模様が有ったり無かったりするのだけれど、この違いはなんなのだろう?

 まさか種類が違うなんてことはないですよね…。

 実はハナアイゴにそっくりなセダカハナアイゴという種類もいるのだけれど、ビーチにいるものもリーフの外で群れているものも、体型的にセダカではなくハナアイゴだろうと見当をつけて今日まで生きてきた。

 ひょっとしてそのどちらでもない似たような種類がいるとか??

 ま、み〜んなエーグァーだと思ってしまえばなんのモンダイもないんですけどね…ソテーにしたら模様なんて見えないし。