水納島の魚たち

セジロノドグロベラ

全長 12cm(写真は2cmほどの幼魚)

 多くのダイバーにスルーされる魚たち、というイメージが確立している「ベラ」ではあるけれど、そう言いつつ要所要所で「おっ?」「ん?」という程度には注目を集めるベラも多い。

 超絶レアだとか人生一度級だといったマニアックな「おっ?」ではなく、フツーにいるからフツーに出会えて「ん?」となるベラといえば、美しく可愛いカンムリベラやツユベラのチビターレなどが有名だ。

 そのようなメジャーデビューをはたしてはいないものの、多くのダイバーの目をたとえいっときだけでも引き付けているであろうチビターレもいる。

 冒頭の写真のセジロノドグロベラの幼魚もそのひとつだ。

 このように画像で見ると何の変哲もない「ベラの幼魚」でしかないこのチビターレ、なにがダイバーの目を引き付けるのかといえば、それはその不思議的動き。

 …と、静止画像をご覧いただいても動きはまったくわからないけど、まるで直線と点で何かを描いているかのような泳ぎ方で、ピーッと直線的に泳いではピタッと止まり、向きを変えてまた直線的にピーッと泳いではピタッと止まり……をずっと短いローテーションで繰り返すセジロノドグロベラ・チビターレ。

 チビターレだけに2cmにも満たないサイズながら、かなり特徴的な動き方のため、言われてみればダイビング中に気になって仕方がなかった、という方も多いかもしれない。

 ところがほとんどの方の場合、ダイビングを終えてエキジットする頃にはそれは早くも朧げな記憶となり、ログ付けをする頃にはその記憶はすっかり酒の海に沈んでしまうことになる。

 セジロノドグロベラのチビターレはおそらく、「海中では気にしてもらえるのにエキジット後は忘れ去られる」度ランキングのかなり上位をキープし続けていると思われる。

 そんな隠れたスター、セジロノドグロベラ・チビターレには、当然ながらもっと小さな頃がある。

 砂地の根の周辺の海底付近で見かけることが多いセジロノドグロベラの激チビターレは↓こんな感じ。

 ほんの少し大きくなると…

 体長5mm以上10mm未満で、しかも肉眼では透明部分のボディがほとんど見えず、体の後半は骨だけのようにすら見えるため、ジッとしていればまずクラシカルアイでは気づけないサイズと色柄。

 ところがこの激チビターレも、15mmくらいのチビターレほどではないにしろかなり特徴的な泳ぎ方をしているから、思わず「ん?」となる。

 初めてこの激チビターレの存在に気がついた頃は、にわかにはセジロノドグロベラだとは認識できなかった。

 それでも、もう少し成長して1cmくらいになると……

 激チビとチビターレのどちらの特徴も観られるので、ホネホネ激チビがセジロノドグロベラであることを知ることができた。

 そして2cmくらいまでは、例の特徴的な泳ぎ方をしながら海底付近でエサを物色しているチビターレ。

 これからもう少し成長すると…

 3cmくらいになったこの頃にはもう特徴的な泳ぎ方があまり目立たなくなるので、ダイバーの目を引かなくなる頃、と言えるかもしれない。

 さらに成長して5cmくらいになると…

 こうなるともう「メス」になっていると思われる。

 セジロノドグロベラもご多分に漏れず1匹の「オス」が複数のメスを縄張り内に囲っているようで、メス同士が仲良くしていることもある。

 行動がオスっぽいけれどまだ色柄はメスっぽいものもいる。

 尾ビレの両端にはオスの特徴の太く黒い線がクッキリし始めているから、ひょっとするとメスからオスになろうとしている途中段階なのかも。

 では「オス」はどのような色柄かというと……

 こんな感じ。

 「オス」は10cmちょいくらいあって、行動範囲も随分広い。

 メスの頃までは輝く点々模様だった顔は、まったく別モノに変わっている。

 ハレムを作る性質上、幼魚やメスに比べればオスは遥かに出会う機会が少ないので、オスをたまに見かけると「おっ!」となる。

 ただ、いかんせんその「おっ!」は、それ以前に激チビターレからの変遷を踏まえていればこそ。

 いきなりこのようないかにも「ベラ」なベラが目の前を通り過ぎても、気にも留めないという方のほうが圧倒的に多いと思われる。

 やはりセジロノドグロベラは、チビターレ時代の妙な泳ぎっぷりがあってこそなのかも。

 でも海中ではどれほど気になって仕方なくとも、陸に戻ると忘れ去られるセジロノドグロベラ・チビターレだから、メジャーデビューはまだまだ遠いに違いない……。