全長 4cm
タイドプールなど潮間帯を好むカエルウオの仲間はなにげに種類が多く、どれもこれも似たような色味だし気分で体色を変えるから区別が難しい。
なかにはロウソクギンポなどのように、浅い浅いタイドプールで変態社会のみなさんが撮る鏡面写真のモデルになるような種類もいるから楽しそうではあるのだけれど、ボートダイビングがもっぱらのダイビングライフを送っている我々には、そもそもそのような潮間帯ゾーンの魚とお近づきになる機会があまりない。
でも2021年の10月から始まった軽石禍のために、ボートを恒常的に島に置いておけない状況が長く続くと、絶好のダイビング日和にもかかわらずボートが無いという日が出てくる。
となると、好むと好まざるとにかかわらず、潜るならビーチエントリーということになる。
新年(2022年)の潜り初めでオタマサが見つけたこのシマギンポは、そんな状況下であればこそ初めて確認できたギンポだ。
撮影者のオタマサによると、冒頭の写真の子は桟橋のコンクリートブロックの継ぎ目にできている隙間にいたそうで、上の写真は横向きにしてあるけれど、本当は頭が下向きになった状態でチョコンと鎮座していたという。
このテの浅いところにいるギンポだから、例によって種類が定かならないままとなるかと思いきや、シマギンポには体色がどんな色味になっていようとも、他種と区別できるとてもわかりやすい特徴がある。
胸ビレ手前の黄色く丸い模様だ。
これにより、写真を見くらべながらどの種類だか延々頭を悩ませることなく、すぐさまこの子がシマギンポであることがわかる。
シマギンポは水納島でもタイドプールなど浅いところならいくらでもいるのだろうけれど、前述のとおり普段のボートダイビングではまず縁がないから、当コーナーには今さらながらの初登場だ。
ネット上で観られる写真を見ると、もっと薄い体色をしていることもある一方、春から初夏にかけてがピークなのであろう婚姻色が際立っていた。
どうせなら、真冬のひっそりモードの時ではなく、婚姻色を発してやる気モードになっている様子を観てみたいところ。
モンダイは、そんな季節にビーチエントリーをしていられるかどうか……。
※追記(2022年4月)
ダイビングサービスの通常営業を終了したおかげで、そんな季節にビーチエントリーができるようになった。
春の大潮の干潮時を狙って、きっとシマギンポなどの潮間帯ギリ大好きギンポ系がいるだろうと見込んで訪れたのは、潮が引くとひと坪ほどになるタイドプールだ。
水深50cmほどだからタンクなど必要なく、世界一安全なスノーケリング状態で覗いてみたところ…
いきなりシマギンポがやる気モードになっていた。
紛うかたなき胸のお月様マークが無ければ、まったく別のギンポかと思えるほどの変身ぶりだ。
鮮やかに彩られた背ビレなど、ドイツブリ―ドのアピストグラマ・カカトゥオイデスの趣きさえある…。
一方、オスが情熱を捧げるメスは狭い範囲にやたらとたくさんいるけれど、彼女たちは普段どおりの装いだ。
彼女たちはもともと狭い範囲にたくさんいるのか、恋の季節だから狭い範囲に集まっているのかは不明ながら、彼女たちを産卵に誘うオスの動きが激しくおかしく面白い。
穴に設けた産卵床に誘うため、鮮やかな色になって体を宙に浮かせつつ、上下に波打つように動いていると、やがてメスがその穴に入る。
すると、顔だけ出しているメスの前で、オスがまたエールを送っているんだかギンポのラマーズ法なのだか、やたらと激しい動きをするのだ。
するとメスも、巣穴から上半身を出しながらそれに応える。
そうこうするうちにメスが穴から出ていき、入れ替わりにオスが穴に入る。
穴に入ったオスは、思わせぶりな動きをしつつ、なぜだか尾ビレ付近を穴に入れているだけの姿勢で、けっこう長い時間そのままでいる。
これは、メスが卵を産んで、そのあとオスが入って受精させている…ような気がしたものの、オスの尻ビレの前にある突起が輸精管だとすると…
…これを外に出した状態のままでいるのだから、放精しているわけでもなさそう。
面白いことに、このカップルはこの一連の動きを3回くらい繰り返していた。
そして再び穴に入ったメスは、今度は穴に入ったきり、顔すら出さないままになった。
その間、外から穴を覗き込み、「もしもーし!」と呼び掛けているかのようなオスの動きが面白い。
そしてまたメスが出ていくと、オスが入れ替わりに穴に。
今度はもっと穴に身を沈めているような気がしたけれど…
はたしてこれが産卵&放精だったのだろうか。
聞くところによると、彼らの恋の「儀式」には、オスが用意した産卵床をメスがチェックする段階があるのだそうだ。
穴の具合いやらなにやら、入念にチェックしたうえで、ナットクしたら産卵、ということらしい。
そのチェックに合格するよう、懸命にムードを盛り上げようとするオスの姿が涙を誘う…。
でも恋の炎に燃えているシマギンポオスの顔は、希望に満ち満ちているのだった。