全長 50cm
「ウミヘビ」と名がついているだけあって、その体はヘビのようにニョロニョロしている魚のウミヘビたち。
でもこの仲間の多くは夜行性で、日中は砂中から顔だけ外に出して休憩しているから、「ニョロニョロ系はちょっと苦手……」という方でもお近づきになりやすい。
ところがこのシマウミヘビは、日中もかなり自由気ままに泳ぎ回っている。
どこにいる、とハッキリ言えるほど特定の場所があるわけではないかわりに、時には桟橋脇で見られることもあるほどに、砂底さえあれば場所を選ばないようだ。
冒頭の写真もリーフ内にいた子で、身をくねらせながら元気に泳いでいた。
その姿は、まさにウミヘビ。
ちなみに↓こちらがホンモノのウミヘビ。
ウミヘビとそっくりだからこそ、誰に襲われる心配もなく、こうして日中でも平気でそこらじゅうを泳ぎ回っていられるのだろう。
と思いきや。
あるシーズン中の朝のことだった。
いつものように、係留してあるダイビングボートを桟橋に横付けすべく準備をしていると、海面にロープの切れ端が浮いているのが見えた。
こういったものがペラに巻きついたりしたら厄介なことこのうえない。
幸い流れに乗ってボートに近づいてくるようだったから、手が届くところまで来たら回収しようと見ていると…
なにやらそのロープ、クネクネと動いているではないか。
流れにのってだんだん近づいてきたそのロープ、よくよく観てみると……
なんと、ウミヘビ!!
しかも!!
ウミヘビ(クロガシラウミヘビ)が魚のシマウミヘビを飲み込もうとしているではないか!
2匹であることがわかった当初は同種が交尾でもしているのかと思っていたから、あまりのことにビックリしつつ、船に積み込むグッズのひとつであるコンデジを手に、慌てて撮った次第。
ボートを桟橋に横付けし、必要なグッズを積み込む用意をしていたからこそカメラが手元にあったからよかったものの、これでただ眺めるだけだったらマグニチュード9くらいの地震が発生してしまう地団太を踏んだことだろう。
ところでこのウミヘビ氏。
どう考えても呑み込むのは無理があるようにしか思えないんだけど、本人としてももはやどうしようもないのか、水面付近に浮いてクネクネしながら、流れに乗って桟橋を通り過ぎ、沖へと出ていきそうな雰囲気だった。
このあと最終的にウミヘビがシマウミヘビの全身を呑み込むことができるのかどうか、一部始終を見届けたかったところながら、結論が出る前に、両者はもつれあったまま、桟橋を遠く離れて流れていってしまった。
オタマサによると、随分昔に巨匠コスゲさんの夕刻のダイビングの終了時間帯に桟橋にいた際にも、海中にいた巨匠ともども目撃したことがあるという。
となるとウミヘビがシマウミヘビを捕食するのはたまたまではなく、わりと日常的にこういうものを食べているということなのかもしれない。
後日砂地のポイントを潜っている時、ふと傍らに目をやると……
これはもちろんガーデンイールの新種ではなく、頭が完全に砂の中に埋まっている状態のクロガシラウミヘビだ。
彼らがこのように海底に突き刺さるようになっている姿は、ちょくちょく目にすることがある。
なにやら宗教儀式じみた不思議な光景で、何をやっているのか意味不明だから、とりあえずゲストには、
「ウミヘビが海より深く反省してます」
と紹介してきたものだった。
この日もその反省ぶり(?)を撮ろうと近寄ったところ、なんとその傍らから、30cmほどのシマウミヘビの若魚が、脱兎ならぬ脱蛇のごとくダッシュで逃げ去っていくではないか。
ひょっとしてクロガシラウミヘビ、このポーズは反省ではなくて、実はシマウミヘビをはじめとするウミヘビ系の魚を捕食するためのサーチング態勢ってこと??
このあとクロガシラウミヘビは、シマウミヘビの不在に気がついたのか、モゴモゴモゴと頭を引っこ抜き、しばらくその周辺をサーチし始めた。
あのぉ…シマウミヘビは随分遠くまで逃げていきましたけど?
あ、このあたりにはチンアナゴもいるか。
シマウミヘビが好物なのだとしたら、チンアナゴあたりでもOKなのかも。
でもチンアナゴがたくさんいるところで、クロガシラウミヘビの反省ポーズは観たことがない。
ひょっとしてシマウミヘビ専食とか??
さほど個体数が多いとは思えないシマウミヘビを探し求め続けているのだとしたら、なんと非効率的な暮らしであることか。
もっとも、さして代謝が活発ではない爬虫類のヘビのこと、シマウミヘビサイズが餌になるなら、ひと月に1匹食べられれば充分生きていけるのかもしれない。
身を守るために役に立ってもらっているウミヘビが、天敵ナンバーワンの座を占めているだなんて、なんという皮肉、シマウミヘビ。
ところで。
ウミヘビに追いかけられているわけでもないシマウミヘビが、中層を堂々とクネクネ泳いでいたことがあった。
シマウミヘビにはちょくちょく出会うものの、ジッとしてくれることが滅多になく、いつも忙しなく移動しているから、ジックリとご尊顔を拝する機会があまりない。
ところがこの遊泳中の子は、どういうわけかこのあと着底し、わりとおとなしくジッとしてくれていた。
チャンスとばかり、お顔をパシャ。
おお、これがシマウミヘビの顔かぁ。
なんだか笑っているようで可愛いじゃないか。
……と、この後ワタシはなんの疑問も抱かずに、今日までこれがシマウミヘビの顔だと信じてきたのだけれど。
今回この稿をリライトするに際し、体全体を写している別のシマウミヘビの写真を顔だけアップして比べると……
あれ?
フォルムといい顔つきといい模様といい、なんか違うくない??
よく観ると、体の縞模様の感じも違っている気が…。
シマウミヘビと出会う際はたいていゲストをご案内中なので、出会う回数の割には撮っている写真はかなり少ないから頼りない記憶に頼るしかないのだけれど、これまでの記憶に基づくシマウミヘビの顔といえば、後者のイメージ。
ってことは……
ジックリと顔を撮らせてくれた子って、いったい誰なんだろう??
別種?
顔のバリエーション??
情報求む!
※追記(2021年10月)
その後も顔つきが違う子の情報はどこからも寄せられていないかわりに、再びシマウミヘビの受難シーンに遭遇した。
かなり流れが強かった日のこと、体が途中で折れてしまっているようなウミヘビがいる…
…と思ったら、それは(おそらく)ヒロオウミヘビ(爬虫類)が、シマウミヘビを飲み込もうとしているところだった。
慌てて動画で撮影したものの、あいにくあまりもの激流だったせいか、それともそばにワタシがいるからか、(推定)ヒロオウミヘビは大好物のシマウミヘビを諦めてしまった。
御馳走を逃してしまったヒロオウミヘビはザンネンだったかわりに、食べられかけていたシマウミヘビは九死に一生を得た!!
…と思いきや、哀れシマウミヘビ、九死ではなく十死だったらしく、すでにこと切れていたのだった。
こと切れた姿のまま、流れに漂う姿が涙を誘う…
…というか、もしヒロオウミヘビが諦めずになお頑張って飲み込もうとし続けていたら、それを撮っているワタシもつき従い続けていたかもしれず、そうするとこの激流に乗ってウミヘビともども遥か彼方に流され、シマウミヘビと一緒に十死になっていたかも…。
ヒロオウミヘビ、あきらめてくれてありがとう。