全長 60cm
もう随分昔、90年代半ば頃のこと。
当時まだ売れない写真家だった現・某有名海洋写真家は、自身2冊目の写真集の作者紹介において、「クロワッサンアイランドでガイドをしながら…」などと自分で書いてしまったのが運の尽き。
たしかに手伝ってもらってはいたけれど、半分以上居候のようなもので(なにしろ我々夫婦が民宿大城さんのバーベキューのアルバイトを終えてヘロヘロになって帰ってくると「腹減りましたなぁ、飯はまだですかぁ?」というヤツだった)、百歩譲ってバイトだったとしても、少なくとも「ガイド」はしていなかった彼である。
それが写真集刊行後、彼のファンになった方も当店を訪れるようになったし、このままガイドをしないままでは、当店はJAROに訴えられてしまうかもしれない。
というわけで、自ら勢い余ってプロフィールに書いてしまったことが仇となり、ときおりガイドの仕事もするようになった彼である。
そして、カメラをお持ちのゲストを某売れない写真家(当時)が案内していたときだった。
ガレ場で突如ニョロニョロ現れた変な魚は、それまで写真家氏が、海ではもちろん、図鑑ですら見たこともないウツボらしき魚だった。
すぐさまそうと知るや、これは珍しい、すぐさま撮れ、ただちに撮れ、頼むから撮ってくれ、とばかりにそのゲストにお願いし、撮ってもらったという。
あまり気乗りはしなかったものの、ガイドが撮れというからとりあえず撮ってみたそのゲストだったけれど、その後ご本人が瀬能博士に鑑定してもらったところ、なんと本邦初公開の珍しいウツボだったことが判明。
そして、そのとき彼が撮影した写真は、今はなきI.O.P.ニュースの記事としてその後掲載されたのである。
その誌上で新和名として提唱されたのが「シノビウツボ」という名前。
その名のとおり、どこかで寂しく忍び暮らしているのか、同じ個体と思われる冒頭の写真を撮ったときのただ一度しか出会ったことがない。
もうそろそろ、忍ぶのはやめて出てきてくれないかなぁ…。