全長 25cm
シラタキベラダマシは稀種である。
……と、昔からどの図鑑にも書かれてある。
変態社会人が大手を振って潜るようになっている現在の変態社会ネット上では、「幻のベラ」と言われるようになってさえいる。
分裂増殖し続ける変態社会人たちがカメラを携えあちこちの海で潜っていても、おいそれとは出会えないベラなのだ。
シラタキベラダマシが好む生息場所は、潮通しのいいドロップオフ環境で、随分深いところであるという。
となると、水納島では残念ながら出会う機会はなさそうだ……
…と思いきや。
そんな「幻のベラ」が、なんと砂地の根に居た!!
2010年の年初のことだ。
それ以前にも砂地の根でシラタキベラダマシのオトナの姿を目にしたことは何度かあったけれど、記録に残せたのはこれが初めてのことだった。
写真のシラタキベラダマシは、その場に彼1匹しかいないにもかかわらず、その後しばらくこの砂地の根に居ついてくれていた。
しかし惜しくもゲストの眼に触れることなく、いつの間にか姿を消してしまった。
ま、酒が主目的のクロワッサンのゲストの場合、シラタキベラダマシがいると聞いて眼の色を変えるヒトはいないだろうけれど……。
その後2019年現在に至るまで、シラタキベラダマシのオトナとは再会を果たせていない。
そのかわり、幼魚に出会うことができた。
年に数度くらいしか訪れない岩場のポイントの深いところで、ブダイベラの幼魚と一緒に泳いでいる2匹のベラ系のチビ(4cmくらい)がいた。
ブダイベラは砂地の根でもよく観るお馴染みの魚だけれど、他の2匹は人生初であることは間違いない。
とりあえず撮っとけ!
…と一応撮ったものが、まさかシラタキベラダマシの幼魚だっただなんて。
水深30mくらいに棚があって、そこから15mほどの崖になる下側だから、それなりに豆腐脳が窒素で痺れる水深だ。
なるほど、シラタキベラダマシって、本来はこういうところで観られるものなのか。
もっとも、周りを見渡してもオトナの姿はどこにもなかった。
こうして幼魚の姿がしっかり我が豆腐脳にインプットされてから1年後(2018年)、今度は再び砂地の根にシラタキベラダマシが現れた。
ただし10cmほどの若魚。
オトナと出会ったときと同様、普段ゲストをご案内することもあるフツーの水深の根で、各種ハナダイたちと一緒になって元気に泳いでいた。
残念ながら周りにはオトナも子供も他のシラタキベラダマシの姿はなく、やはりこの子1匹状態。
そのシーズン中、わりと長い間同じところに居続けてくれたものの、いつしか姿を消してしまった。
それぞれとの出会いは束の間ではあったけれど、オトナも子供も「幻」と言われているシラタキベラダマシ、そのどちらにも出会ったことがある者は、バイストンウェルの物語を覚えている者と同じくらいシアワセである。
このシラタキベラダマシ運があれば、いずれそのうちオトナとの再会を果たせるに違いない。
この稿に「※追記」が加わるのを待て。
というわけで、世評は「幻」でも、個人的には何度か会っているということに鑑み、レア度は……
※「珍」マークは3つが最上級です。
※追記(2020年6月)
ついに「※追記」が加わる日がやってきた!
今年(2020年)5月のこと、普段ちょくちょく訪れる砂地の根に行ってみると、ハナダイ類のオスたちの求愛泳ぎが活発で、観ているとにぎやかで楽しい。
なのでボーッと眺めていると、視界を横切る際立った姿が。
あれは!!
シラタキベラダマシのオトナだ!
実に10年ぶりの再会。
前述の2018年に出会った幼魚がいたところとは別の場所ながら、距離にして50mも離れていないから、ひょっとすると2年前の幼魚かも…。
観たところシラタキベラダマシは盛んに誰かにアピールしているようなのだけど、「幻」だけにあいにくメスの姿はどこにも見当たらない。
だからなのか、彼は同じ仲間のシラタキベラやヤマシロベラ相手に、オスメス構わずアピールし倒していた。
不思議なことに、ときおり中層から下降して海底に降りて来ては、岩のそばをみんなで物色していた。
他に群れているハナダイ類たちはそのまま中層に群れたままで、シラタキベラダマシ属の魚たちだけがなぜだかときおりこのようなことをしていた。
いったい何の儀式なんだろう??
どう頑張っても周りには同種のメスの姿が無いシラタキベラダマシにとって、何をどう頑張っても徒労以外の何物でもないと思うのだけど、本人はけっこう楽し気にスイスイ泳いでは、プランクトンにパクついていた。
再会を果たすまでに10年。
次なる出会いまで、また10年待たねばならないかもしれない。
となるとシラタキベラダマシは永遠に元気でも、ヘタをすると個人的には人生最後の出会いとなるかもしれないから、この際とばかりにパシャパシャ、一生分撮らせてもらったのだった。
はたして次なる「※追記」はあるか??
※追記(2021年7月)
10年ぶりに出会ったシラタキベラダマシのオスは1年経っても健在で、現在のところ個人的史上最長滞在記録を更新中だ。
昨年(2020年)はこのオスのほか、また別の砂地のポイントの根でもう1匹出会っていて、彼もまた年を越して今なお健在。
そしてその同じ場所には、若魚が2匹暮らしていた。
同じ場所で大小合わせて3匹もいるだなんて、これまた個人的史上最多記録更新である。
で、昨年6月には幼魚といっていい色味だったこの子と同一個体かどうかは確証がないものの、10ヶ月後の今年(2021年)4月にまったく同じ場所で出会ったシラタキベラダマシは……
…このように成長していた。
まだ幼魚模様のラインが見えはするけれど、ほぼほぼメスといっていい。
さらにその20日後には……
幼魚の名残りが随分薄くなっていた。
ここには先述のオスもいるから、「幻」のシラタキベラダマシのオスとメスを同時に同じ場所で観られるという、なにげにスペシャルな根になっていたりする。
オスメスともにこの先もここで暮らし続けてくれれば、ひょっとすると産卵すら観ることができるかもしれいない?
追記を待て。
※追記(2023年1月)
産卵は今に至るもまだ観ることができていないけれど、驚いたことに史上最長滞在記録を更新しているロンリーオスは2022年も健在。
ただ、記録更新はいいけれど、あれほど鮮やかだったものが、随分冴えない色になっていた。
2年もの間ずっと独り身が続き、ついに絶望の果てに沈んでしまったのだろうか。
いや、待てよ…。
これまで撮ってきたのは、水温がまだ低い梅雨時がもっぱらで、↑これは唯一真夏の8月に撮ったもの。
実は彼らシラタキベラダマシが繁殖のために張り切るのはそれくらいの水温の頃で、その頃なら婚姻色をほとばしらせているのに対し、真夏は高水温でグッタリしているから、色褪せた地味地味ジミーモードになっているってことなのかも。
ということは、ハイシーズンの真夏にシラタキベラダマシを観ても、一般ダイバーにとっては単なる地味な「ベラ」になってしまうってこと?