水納島の魚たち

シテンヤッコ

全長 25cm

 シテンヤッコの「シテン」とは、四つの点という意味。

 その点の中にはおそらく目の上の黒点も含まれているのだろうけれど、このシテンヤッコの場合それは、点というよりは眉といったほうがふさわしい。

 それも、公家眉のような……。

 なんかいかにも「まろは……」と言いそうでしょう?

 この公家眉のような黒点、本来は左右の目の上にひとつずつのはずなんだけど、なかには……

 くっついてしまっている子もいる。

 これじゃあ「こち亀」の両さんだ。

 おまけに、藤木君のようなブルーの唇……。

 海で出会ったら、是非正面から見てみてください。

 シテンヤッコはカイメンなど岩肌に付着する生き物をエサとしているから、本来は岩礁域、それもどちらかというとドロップオフのような雰囲気のところでチラホラ見られる。

 残念ながら水納島にはそういう環境がダイビングポイントに無いため、出会う機会はまずない……

 …と思っていたところ、何がどうしたのか砂地の根に住み着いているものもいて、5、6年の間ずっと同じポイントに居着いてくれた子もいた。

 砂地のポイントは根が点在しているに過ぎないから、ドロップオフ環境に比べると岩肌の総表面積は格段に小さいはず。

 岩場の付着生物を主食にしているであろうシテンヤッコにとっては、はなはだ不利な環境だろうに。

 でも時には砂地でペアになっていたりもしたので、まったくのひとりぼっちというわけではなかった。

 この顔で、互いに何を語り合っていたのだろう…。

 残念ながら、水納島でシテンヤッコのチビに出会う機会は、過去25年で一度もない。

 そのかわり、その昔伊豆は大瀬崎で潜っていたときに、季節来遊のシテンヤッコのチビチビと出会った。

 ほぼ似たような色合いながら、目には黒帯が入っているし、体にもうっすらと縞模様が出ていた。

 こんなチビチビ、島のどこかにいないかなぁ…。