全長 50cm
ダイバーなど一部の人々を除き、その大きさのわりに本来は人知れずひっそりと暮らしているソウシハギ。
ところが例によってバカ騒ぎをするマスコミのおかげで、この年末(2018年)に一躍「時のヒト」になってしまった(詳しくはこちら)。
思わぬところでとばっちりを食らってしまったソウシハギ。
海中での彼らは平穏そのもので、いつも単独かペアで、リーフ際や砂地の根から根をのんびり泳いでいる。
その独特のフォルムのために、シルエットを観るだけで遠目からでもすぐそれとわかる魚だ。
フォルムはおおむね変わることはないけれど、体色は気分や背景によって濃淡が変わる。
素早く泳ぎ去る時は冒頭の写真のように薄めの色なのに対し、ホンソメワケベラに掃除してもらっているときなどジッとしているときや、岩陰に寄り添って泳いでいる際はかなり濃くなる。
また、特徴的な尾ビレは常時開いているわけではなく、素早く泳ぎ去りたい時などは閉じていることが多い。
幼魚の頃もフォルム的にはオトナと似たような感じながら、大きなオトナがわりあい堂々とその姿を晒して暮らしているのに対し、幼魚は水面に浮かぶ枯葉・枯枝や、係留ブイのロープなどに擬態して身を隠している。
10cmほどのチビターレがそのように擬態している様子は微笑ましい。
ひところは毎年1、2度出会うことができていたので、ひょっとするとフィルム写真時代に撮っているのかもしれないけれど、ここ10年以上、ソウシハギの幼魚に出会ったことがなく、残念ながら微笑ましい擬態ぶりをこの場でご紹介できない。
ところで、ハギという名がついているけどソウシハギはカワハギの仲間で、他のカワハギ同様菱形の体におちょぼ口である。
いったい何を食べればそうなるのか、そのおちょぼ口が大変なことになっているものもいた。
このおちょぼ口でウミシダを食べるとは思えないけど、何かを食べようとしたその脇にウミシダがいたのだろうか。
千切れたウミシダの触手が、 口だけではなく目にもくっついてしまっている……。
けっして珍しい魚ではないけれど、同じエリアに数多くいるわけではなく、そのため出会う機会はそれほど多くないソウシハギ。
でも沖縄では美味しい魚として認識されており、その白身を賞味している人は多い。
そのチャンスに恵まれたら、「内臓を食べてはいけない」ということをお忘れなく。
※追記(2020年3月)
オタマサがかつて撮ったコンデジ写真を探っていたところ、2012年6月に撮影されたこんな写真を見つけた。
撮影者の朧げな記憶によれば、どうやらボート係留用のブイのロープに寄り添っていたらしい。
15cm〜20cmくらいだったようで、残念ながらロープに寄り添って擬態しているシーンはないものの、オトナとは全然違う様子をうかがい知ることはできる。
幼魚というにはいささか育っているかもしれないけれど、ともかく「発掘」できてよかったよかった。
※追記(2020年7月)
海中がいろんな魚たちのチビたちでにぎわうようになってきた2020年初夏、ついにソウシハギのチビチビと再会することができた。
それもカメラを携えている時に!
場所はボートのラダー!!
先に上がっていたオタマサによると、このチビターレは予備のアンカーロープに寄り添っていたらしく、そのアンカーを上げているときにオタマサが気付いて、エキジットしようとしていたワタシに教えてくれたもの。
拠り所にしたアンカーロープが動いてしまったため、そのあとフラフラとラダー方面まで漂ってきたらしい。
10cmに満たないその姿は、横を向いたらほとんど枯葉、縦になったら波間を漂う枯枝にしか見えない。
でもその枯枝をちゃんとじっくり見てみると……
やっぱりおちょぼ口だった。
※追記(2020年8月)
かなり久しぶりにソウシハギのチビと出会うことができたヨロコビが、今年の海のトピックのひとつになるかも…
…なんて考えていたところ、そのひと月後には、これまでソウシハギのチビに会えなかった長い期間はいったいなんだったの?ってくらいのソウシハギ・チビターレバブル事件が起こった。
本来なら南東の風が強めに吹く時期はとっくの昔に過ぎているはずのところ、何度も戻り梅雨になったせいか、7月下旬になっても再び南東の風が強めに吹く日がやってきた。
そのため桟橋の東側に、数多くの千切れ藻や海草の切れ端、枯枝などが溜まっていた。
その枯れ草の溜まり場を観てみると、アミモンガラやマツダイ、正体不明のアジ類の幼魚にハナオコゼなど、流れ藻などにつきながら沖合の表層を漂って暮らしている各種幼魚たちが、そこに大集合していた。
そしてそこには……
5cmちょいほどのソウシハギのチビたちの姿も。
最初は1匹、2匹…と数えていて、3匹もいたからオオッ!と盛り上がっていたところ、3匹程度で驚いている場合ではなかった。
なんとこの枯れ藻の溜まり場には……
写真の範囲だけでなんと18匹ものソウシハギ・チビターレの姿が。
この千切れ海草漂着ゾーン全体では、少なくとも全体で50匹くらいのソウシハギチビターレがいたはず。
これまでなかなか会えなかったことを考えれば、ひょっとすると一生分を通り越して人生10回分くらいのソウシハギ・チビターレに会ってしまったかもしれない?