全長 15cm(写真は15mmほどの幼魚)
スジベラは水納島の砂地のポイントでごくごくフツーに観られるから、その名も存在も昔から知っている。
けれど恥ずかしながら、彼らもまたカンムリベラ属の魚だなんて、これまで一度として意識したことは無かった。
一度もないといえば、過去26シーズンにおいて(2020年現在)、スジベラをゲストにご案内したことなどおそらく一度も無いと思われる。
一部の特化した変態社会ダイバーを除く一般健全レジャーダイバーのみなさんなら、その名すらご存知ではないかもしれない。
でもそこはそれ、カンムリベラ属の魚だから、冒頭の写真のようなチビターレが、オトナになると……
やはり全然違う体色になる。
だったら、カンムリベラやツユベラと同様に、このスジベラだって親子の体色の劇的な変化ネタに登場してもいいのに……
…ってなところながら、スジベラにはこのテの話題でメジャーになれないビミョーな理由が3つある。
まず、スジベラは完熟オスになっても20cmに満たない大きさなので、サイズ的なインパクトが無い。
また、冒頭の写真のような繊細な色味でチョロチョロしている期間は激チビの頃だけなので、出会う機会があまりない。
なにしろ冒頭の写真のチビターレなんて、ハナガササンゴのポリプと比べてもこれくらいでしかない。
この色味のまま3〜4cmくらいまで育ってくれればいいのだけれど、2cmくらいになると……
基本的な色味は同じようでありつつ、なんとなく可憐さが失われてしまう。
ストロボを当てているからこそ赤っぽく見えるけれど、海中で観るといわゆるひとつの「ベラのチビ」ってところでしかない。
それでもまだ体全体が赤っぽいから、オトナとチビターレの違いはハッキリしているけれど、困ったことに、ほぼ同サイズでも↓こういう色の子もいる。
こうなると、オトナとコドモで劇的に体色が異なるという以前に、子供同士でさえ色が異なるから、カンムリベラやツユベラのようにわかりやすい例にできないのだ。
↑この配色のまま若魚〜メスになる子もいれば…
濃い目のカラーリングで若魚もしくはメスになっている子もいる。
同じスジベラとは思えない違いながら、どちらにもエラの上あたりのポッチリと背ビレ付け根後端の小さな黒点という、若いスジベラの印がある。
ひょっとしてこれは、感情によって体色の濃淡が変わるのだろうか。
しかしその場でジッと観ているかぎりにおいては、白っぽい子が濃くなることはないし、その逆もまたなかった。
どうやらこの体色の差は、暮らしている環境に左右されている気配がある。
というのも、たとえ同じ砂地のポイントでも、白っぽいほうは死サンゴ礫転石ゾーンの縁あたりから砂底がメインになる海底に転がる小岩の傍、もしくは砂地の根の周りで観られるのに対し、濃いほうは死サンゴ礫転石ゾーンがもっぱらの暮らしの場っぽいのだ。
白い砂底で濃い体色だと目立ちすぎるから…ってことだろうか。
一方オトナは、リーフ際から砂底までの間に広がる死サンゴ礫転石ゾーンでよく観られる。
オジサンたちがエサを求めてチョコマカ泳ぎ回っていたり、ソラスズメダイやクロヘリイトヒキベラの若魚たちがひそやかに集まっていたりするところでもあるから、スジベラを単独で撮ろうとしてもたいてい邪魔が入る。
逆に言うと、ソラスズメダイを撮ろうとしたらスジベラが邪魔を…ということになる。
若魚から完熟メスへと成長したスジベラは↓こんな感じ。
ただしこれも体色の1つのバリエーション。
白い砂底環境で暮らしているスジベラは基本白っぽく、目元から走るラインが目立つようになりながら、成長するにつれそのラインの目の後ろあたりが途切れるようになる。
やがてそのラインの色が緑味を帯びてくるものもいる。
水納島で観られるスジベラの場合、このように目元のラインが緑色がかっていたらオス…
…と思っていたのだけれど、同サイズで↓こういうものもいる。
緑にこだわればメスっぽいんだけど、背ビレ付け根後端の小黒点がほぼ消えているからオトナ度(?)は高いと思われる。
ウーム……オスもまた暮らしている環境でビミョーに体色が異なるにせよ、水納島で観られるスジベラでは、どの段階で「オス」なのだろう?
水深10mちょいの死サンゴ礫転石ゾーンには、こういう色のオトナもいる。
そしてこのオトナは、濃い色をした若魚もしくはメスと一緒に暮らしていた。
やはりこれはオスとメスってことなんだろうか。
そういえば、昔は明らかにオスオスしているスジベラのオスにフツーに会えていた気がするんだけどなぁ。
そのオスオスしていたオスに比べると、これまで紹介してきたオスっぽく見えるオトナたちはどれも10cmくらいと遥かに小さく、「オス」というほどのブイブイ感がない。
オスオスしてブイブイしているスジベラを、たしか昔撮った事があったような……。
そこでさっそくポジフィルムの海に潜ってみたところ……
いた。
そうそう、これがオスだよね!(目元のラインは一度途切れてからまた繋がるんだろうか?)
今シーズン(2020年)はわりとスジベラを気にしていたというのに、これくらい(15cmほど)の立派なオスに出会った記憶が無い…。
捕食圧(とヒトによる捕獲圧)が高まると途端にオトナが矮小化するハナダイ類のように、なんらかの理由で成魚サイズが矮小化してしまったのか??
スジベラの完熟オスを探せ!
…またひとつ課題を増やしてしまった。
追記を待て。
※追記(2021年1月)
2021年となり、年明けに砂地のポイントで潜っていたところ、水深20m超の根の近くで、スジベラがやおらペア産卵した。
水温21度でもOKってことは、通年繁殖しているんだろうか。
なにしろスジベラの産卵を観るのは初めてのことなので、夏にもしているのかどうかはわからないのだけれど、聞くところによるとカンムリベラは通年繁殖しているそうだから、同じカンムリベラ属のスジベラもオールシーズンなのかも。
翌日、前日とは別の砂地のポイントで潜っていたところ、水深10mちょいくらいの死サンゴ岩がゴロゴロ転がっているようなところで、大きめのスジベラが意味ありげな泳ぎ方をしているシーンに遭遇した。
こ……これは!!
スジベラの完熟オスではありますまいか。
このように背ビレ先端の模様がある部分だけを立て、おでこ(?)のあたりを色濃くし、スイスイスイ…と海底付近を泳いでいるかと思えばときおり素早く上昇しては、急峻山なりカーブを描くようにまた海底付近に下降する…という動作を繰り返しつつ、5m四方くらいの範囲を繰り返し行き来していた。
同じくらいのサイズで同じようなポーズをして泳いでいるものが他に2〜3匹おり、同じように5m四方くらいを泳ぎ回っているのだけれど、ところどころ重なる場所もあるので、オス同士が鉢合わせることもある。
その際どちらかがこのモードで泳いでいると、このモードで泳いでいるほうが激しめに相手を追い払っていた。
まさにこれぞ完熟オスの行動だ。
この色とポーズで意味ありげ泳ぎをしているオスは、ついて回ってくるワタシがイヤなのだろう、体色をあっという間にトーンダウンさせる。
色が淡くなるのもさることながら、立てていた背ビレを寝かしてしまうその姿は、なんだかアイスラッガーを飛ばしてしまったあとのウルトラセブンの頭みたいに頼りなげに見える。
でも少し離れてから様子を見ていると、再びオスはブイブイ言わせ始め、雄々しく雄叫びまであげていた(アクビです)。
いないいない、どこにも見当たらない…と昨年末に憂いていたら、この日はせいぜい10m四方くらいの範囲に「オス」が3〜4匹も。
もちろんそこにいるメスは遥かに多く、オスたちはしきりにメスたちにアピールしているようだった。
これって、時期とかタイミングとかに関係なく、いつでもここにいるんだろうか。
それとも、たまたまこの時(2021年1月15日…新月に近い大潮)が今月の繁殖時期のため、オスたちが集まっていたのだろうか。
そのヒミツを探るためには、小潮のタイミングで再び、そして夏のいろいろな時期にさらに、同じ場所を訪れてみるほかあるまい。
……忘れてなければ。