水納島の魚たち

スジシマイソハゼ

2cm(写真は15mmほど)

 前世紀に刊行されたヤマケイの巨大図鑑「日本の海水魚」は、とんでもない数の魚種を収録している。

 にもかかわらず、そこにはシマイソハゼの「シ」の字も掲載されていない。

 でも当時から、わりと潮通しのいい砂地のポイントの浅いところで、チラリホラリとそれらしき姿を見かけていた。

 やたらと小さいものの、浅いところで眺める真紅のボディがかなり派手で、まだモノが見えていたフレッシュアイにも鮮やかだったから、枚数制限があるフィルムの当時でさえ、チョコチョコ撮っていた。

 もっとも、彼らの居場所的に横から観るポジションにはなかなかなれないために、残っているのは↓このように上から撮った写真ばかり(↓この写真はデジイチです)。

 昔所有していた図鑑の数々を台風被災時にほとんどダメにしてしまい、一部の図鑑しか再購入していないからかつての図鑑の系譜をたどることができない。

 そのためシマイソハゼという名前を何で知るところとなったのか、もしくは当時からすでに知っていたのか、すっかり忘れてしまったけれど、ともかくもこれらの赤く小さなハゼはシマイソハゼということで(個人的に)落着していた。

 イソハゼの仲間なのかと思ったら、それとは別個のシマイソハゼ属ということで、ベニハゼでもイソハゼでもない唯一の存在…

 …と図鑑が出た当初は思っていたところ、今世紀初頭に世に出た「日本のハゼ」において、シマイソハゼとは別に、シマイソハゼ属の1種なるものの存在が明らかとなった。

 へぇ〜、さすがハゼ変態社会帝国、ほとんど同種にしか見えないものでもクッキリと別種になるんだなぁ、でもけっこうレアな存在なんだろうなぁ……

 思ったら、過去に撮ったシマイソハゼと思っていた写真のすべてが、実はこのシマイソハゼ属の1種だった。

 元祖シマイソハゼのほうが珍しいみたい…。

 そんなシマイソハゼの1種に、近年ようやく和名がつけられた。

 その名もスジシマイソハゼ。

 図鑑で述べられている特徴からすると、冒頭の写真はまず間違いなくスジシマイソハゼだ。

 おそらく↓これもスジシマイソハゼ。

 冒頭の写真と比べるとやたらと赤味が強くて別の魚に見えるけれど、なんといってもこの写真の子は冒頭の写真の子と一緒にいたのだから…

 …きっと同種なのだろう。

 ワタシはてっきりこのハゼは地色が赤で、そこに白なりライトグレーのストライプが入っている…と思っていたのだけれど、図鑑的記述によると、地色はグレーでそこに赤い帯なりストライプなりが入っているのだそうだ。

 赤味が強い子なんて、どう見ても赤いハゼなんだけど…。

 これくらいのオトナサイズ(2cmほど)だと、赤味が強かったり弱かったりしても、かろうじて同じ種類であることがわかる(もちろん勝手に判断しているだけです)。

 でも若い頃もしくはメスはいささか具合いが異なっていて…

 …オレンジっぽく見えるものもいる。

 お腹がポッコリしているあたりからして、メスなんだろうか。

 それはともかく、地色がグレーという話はいったいどこに行ったのだろう…。

 記憶の中ではこのような赤いハゼというイメージなので、ワタシなど冒頭の写真や↓こういう配色の「ノーマル」といっていい色味のほうがむしろ異質に見えてしまう。

 一方どちらの「ノーマル」も撮ったオタマサにとってスジシマイソハゼ(ずっとシマイソハゼと思っていたにせよ)の色味といえば、↑このタイプなのだそうな。

 すなわち2人が別個にスジシマイソハゼの色柄を説明すると、サイズ以外はそれぞれまったく異なる魚の描写になることは間違いない。

 魚を知るにあたっても、やっぱり百聞は一見に如かずということなのだろう。